第4章 不協和音の奥に眠る愛
謁見の日。
上等な矢羽根柄の着物に袴姿に深い赤の羽織を着た美玲は、留守をりのと孝太郎に任せて迎えに来た巌勝と共に家を出た。
先日、りのから聞かされたことを前を歩く師範の背を見ながらぽっこりした気持ちになっていた。
家を少し離れたところで突然立ち止まり、こちらに向き直る。
慌てて立ち止まり何事かと思って顔を見上げても、いつも通りの仏頂面で見下ろされ、何を考えているのか解らず困惑する。
「お館様のところへは人目につかぬよう馬は使わぬ。それに柱と数人の移動の隠ししか道を知ることを許されていない。生憎移動の隠にも女はおらぬ。
よって、目隠しをしてお前を抱えていくが、許せ。」
「は?え、え?だ、だれが運ぶのです?!」
言っている傍から目隠しにするであろう布を懐から取り出し、何でもないかのように広げ始めた。
「何を戯けたことを...。ここには私と其方しかおらぬ。」
女の移動の隠とやらがいないという現実と、場所を知られてはいけないという決まりが重要な事とは頭でわかっても
まだ異性と何の経験もない美玲にとっては、体も心も完全に拒否状態で、血の気がどんどん引いていった。
「.....心配せずとも女として見ておらぬ。私とて屈辱。耐えろ。」
と冷たくあしらわれて、手際よく目隠しされて子どもを抱えるような素早さで横抱きにされた。
「.....舌を噛むなよ。」
(屈辱って何よ!!この身長と力でずっと男性に縁がなかったのに.....!!)
と心の中で思い切り毒づいていると、ぐんと速度を上げて走り出した。
「ひゃ.....!!」
「黙れ。」
ぴしゃりと冷徹な声で言われて思わず体が硬直する。
体感速度、馬で走っているのか疑いたくなるほど。
がっちりと自分を抱きかかえる手と腕が異様なほどに熱を上げるのに息遣いの変化しない。
これが”柱”と言われる者がもつ力なのかと感心した。
そして自分が得る力なのかと思うと、羞恥など忘れて始終興味深くそれを観察した。