第4章 不協和音の奥に眠る愛
前を歩く二人
表面上はふつうの兄弟
だけど、
二人の傍にいると漂う雰囲気から
その心の底にはそれぞれ⁵別のものが渦巻いているのを感じた。
巌勝には、底無しに暗く重い憎しみを
縁壱には、底無しの深い悲しみを
不意に、景勝から聞かされた景勝の兄弟の話を聞いてその姿と重なり、胸が苦しくなった。
孝太郎と繋いだ手に少しだけ力が入り、それに気づいて美玲を見上げる。
(今は稽古に精進すべき。二人に認めていただけることが最優先事項よ。
繊細な問題、故に複雑な問題。
でも、この二人を見続けるとなると少し気が気じゃなくなるかもしれませぬ……。)
以後、縁壱が、これからの日程や、鍛練、稽古、について説明を受けながら歩いた。
3日で屋敷を整え、4日目に鬼殺本部で御当主と謁見、5日目から稽古に入り、二人の師範の呼吸の剣技を習い鬼殺の刀を握る。
同時に"全集中常中"の技も習得し、ゆくゆくは柱になって欲しいということだった。
先日見た、巌勝の剣技を思い返しそれを聞かされると、果てしなく遠い道のりに思えたが、縁壱は涼しい顔で3ヶ月で成せるといってくる。
その表情にこれから訓練の異様なほどの過酷さに身震いがした。
しかしそれも、名門・有栖川家の実質の当主である美玲に期待しての課題だった。
他に聞いておきたい事はないかと尋ねられると巌勝が口を開いた。
「……今まで一般隊士にも志願者にも女剣士は前例がない。……女がいる組織は鬼殺隊の療養所と屋敷の使用人くらいだ。
心しておけ。」
「お気遣い有難く存じます。
あまり、稽古の際に女と思っていただかなくても結構です。育った道場も役職も周りをいくら見渡しても男しかいませんでしたので。
ただ、組織に女性がいるだけでも、安心いたしました。」
「.....。」
勿論稽古では、ふたりに女として扱うことはないとしても、やはり、生活の面などで困った時のために言ってくれているんだろうと勝手に解釈した。
甘えるな。お前の向かう場所には、自分の居場所を開拓していくしかないという忠告だとしても、それは充分承知している。
ある程度、当主(仮)だった自分に少しばかり敬意を払ってくれていると思うだけで有り難かった。