第4章 不協和音の奥に眠る愛
雄叫びからいつしか手拍子が沸き起こり
「美玲!!美玲!!
美玲!!美玲!!」
と激励の音頭がとられる。
「みんな有り難うございます……。
必ず生きて帰ってきます……。」
と深々と頭を下げた。
父・景勝が大きくした道場。その門下生たちは景勝の思考も剣技も教義もしっかりと引き継いでいることに美玲は胸を熱くした。
同時に”またここに帰ってくる”という強い気持ちをも焚きつけられた。
涙が止まらない美玲は、師範代理の二人の男と、孝太郎にも暖かく見守られ、和やかな別れの会合となっていた。
翌日。
旅立つ時。
継国巌勝は弟であり、もう一人の美玲の師範となる継国縁壱を連れて迎えに来た。
「今日から、あなたを兄と共に導いてまいります。柱筆頭・柱強化指南役 継国縁壱と申す者。以後よろしく頼む。」
縁壱は兄・巌勝と同様、表情は乏しいものの穏やかな青年だった。背丈、髪の長さ、痣は似ており、暗赤色の羽織を着ている。
「今日からお世話になります。有栖川美玲と申します。こちらは共に参ります甥の孝太郎。わたしの後継者にてこの道場の弟子にございます。」
「有栖川孝太郎と申します。よろしくお願いします。」
元気のよい挨拶に縁壱も目を細めた。
門前には、前列に家族、その後ろには駆け付けた門下生が見送りに立っていた。
「美玲。あなたが戻ってくる間、便りを断ちます。精進なさい。それがけじめです。」
「はい。母上。家の事しばしの間お頼み申し上げます。」
「必ず元気で戻るように。」
「はい。行ってまいります。お元気で。」
母娘は抱き合って最後の別れを惜しんだ。
妹・桜は黙ってその様子を見ていた。
「桜。姉のワガママで気苦労ばかりかけます。」
「今に始まったことではございませぬ」
ぶっきらぼうに答えた。
「よいか。」
巌勝が美玲に尋ねる。
「はい。お願いします。」
美玲と孝太郎が二人の男に頭を下げ、家族、門下生に向き直り深く頭を下げた。
4人が背を向けて歩き出す。