第4章 不協和音の奥に眠る愛
その後、淡々と説明を受けて、こちら側の質問や要望を聞いていただき、巌勝師範は帰っていた。
孝太郎のことをお気に召したのか、別れ際、師範の大きな手でぐしゃぐしゃと撫でて少しだけ微笑まれた。
いつも難しそうに顔をしかめていらっしゃるように見えてたので、そうでない表情をも見れたことが
幾分かこれからの事に対して安心することが出来た。
(きっと、秩序や礼儀、世の中の常識に敏感なだけでそんなに怖い方じゃないのでしょう。
弟様が気になるところです。弟様が柱筆頭ということは、わたしたち兄妹と同じで、弟様が剣術に優れているのかしら。)
ふと、世の中の己が見てきた兄弟の確執を思う。
”男同士の跡目争い”
それは、お家の最大の問題。
幸い有栖川家は父親が寛大であったため事なきを得たが、よそはそうではない。
(師範もご苦労がきっとあるはず。気をつけねばなりませんね。)
そう思案している横で孝太郎は撫でられた頭をずっと抑えて物想いに更けた顔をしていた。
「どうしたのです?.....孝太郎。」
「い、いえ.....。何だか、継国様を正直怖そうなお方に思いましたが、なんだか撫でてくださった手が...父上のように優しかったので.....。」
そう言って頭を押さえていた手を広げてそれを見つめた。
「そうでしたか。
わたしも、その様子を見て少し安堵いたしました。」
「孝太郎。孝太郎は男ですが、泣きたいときは家族だけの時は泣いていいのですよ。
わたしはいつもあなたの勇ましく凛々しい様に助けられているのです。」
「お気遣いいただきありがとうございます。
でも、なんだか元気が湧いてまいりました。
師範、これからは共に頑張ってまいりましょう。」
孝太郎は笑顔でそう言った。
「そうですね。戦いはこれからです!!」
美玲は孝太郎と手を取り合って微笑みを交わした。