第4章 不協和音の奥に眠る愛
父と咲枝さんが亡くなって10日経った。
継国巌勝様と約束した日。
半ば緊張気味に待っていると、使用人が来たことを知らせに来てお通しせよと命じた。
「.....僅か10日ほどで当主らしくなったものだな。」
「お久しゅうございます。わざわざご足労いただき有難く存じます。」
表情は相変わらずないままで、淡々とした物言いだ。
「其方は、剣術に名高い有栖川家の当主であり、……聞けば腕前も評判が良い。
……鬼殺隊当主 産屋敷俊哉と我が弟、柱筆頭継国縁壱と私の判断で、…有栖川美玲を我ら兄弟の継子・後続として迎え入れる。
…………精進せよ。」
僅かに目を細めてそれを言う口調は僅かに優しさを感じた。
「身に余る厚遇、恐悦至極にございます。謹んで御三方のご期待に添えますよう精進いたします。
ご指導のほどよろしくお願いします。」
三本指を畳につけ深く頭を垂れる。
「.....襖の向こうにいる子どもは。」
ギロリと冷たい視線が襖の向こうを見るように向いた。
「兄の長男・有栖川孝太郎にございます。わたしが剣術を指南してきました。まだ6つの歳ではございますが、有栖川家のわたしの後を継ぎたいと、ついてくると申しております。」
「………其方はまだ家が健在の状態。捨てはせぬということでよいか?……他に跡取りを連れて来る者もおる。
当然だが、屋敷と使用人は手配する。その範囲で好きにすればよい。
.....孝太郎と申すか.....顔を見せよ。」
「はい!失礼いたします。」
行儀よく姿勢を正し、襖を開けて孝太郎が入ってきた。
「先日は父・母の葬儀に参列いただきまして誠に有難うございまする。
そして、叔母であり、我が師範・有栖川美玲を弟子にしてくださり感謝してもしきれませぬ。
私は有栖川孝太郎と申すもの。まだ歳も幼のうございますが師範との同伴の許可をいただき恐悦至極に存じます。」
孝太郎は凛々しく背筋を伸ばし深々と頭を下げた。
その様子を見ていた巌勝様の御様子は、何かを思い出すかのように暖かに目が細められていることに気づいた。
「.....立派なものだ。励め。」
その声色に少し切なげに聞こえた。
表情が乏しく言葉か少ないから、それが何ゆえかはわからないものの、案外簡単に受け入れられた事にそっと胸をなでおろした。