第4章 不協和音の奥に眠る愛
「蔑ろには致しませぬ。
鬼狩りの件は、わたしと父上の一存にて勝手に話が進んでおり、それが遺言となっています。
わたしは残された時間に最大限の準備をしていこうと思うております。
それを本日から一月以上、四十九日法要までに終わらせ、ここを経ちまする。」
「美玲。家の事は母に任せてください。景勝様が子どもを親で縛りたくないお方だったのです。あなたまでこの道場を空ける事になるのは、想定の範囲内ですよ。
但し、修行として鬼狩りに徹しなさい。女の身体は男のようにいつまでも前線で戦えるわけではありません。
あなたが30歳を迎えるまでが猶予です。」
母は、穏やかな口調でありながら、どこか父のような強さを言葉に感じた。
「母上………。しかし、鬼狩りは、こちらで道場を続けていく事よりも過酷。常に死と隣り合わせなのです。」
人外の者と毎日のように戦うという鬼狩りは、大名の護衛くらいかそれ以上の危険性を毎日のように向き合わなければならない。
そして、相手は人間ではないのだ。人を喰らうバケモノ。
現れる場所を選ばない。
「こちらに戻ってくる覚悟で日々を生きなさい。あなたは人より強くなるように生まれたのです。
その力で民の暮らしを守り抜く侍になるのならば、あなたの存在が長らく世に必要という事。
日々”人として人に尽くすためにどう生きるか”そのことだけを考えるのです。」
母は下唇をかみしめるように強く美玲に言った。
亡き父、息子の無念を思うからこそ、その分生きて欲しい、世に尽くしてほしいという願い、そしてもう家族を失いたくない気持ちの表れだった。
母・明海の強い願いに、美玲は頷く他なかった。
「承知しました。生きてこちらに帰る事、お約束します。」
母は頷きながら、その眼には優しい涙を浮かべていた。
「あなたが己に課した責務をしっかり果たしていらっしゃい。」
「少し待っていただきたい!!」
話しはこれで終わりかに思えたその時
大きな声を上げたのは幸伸の長男・孝太郎だった。
「何でしょう。」
「私も、その鬼狩りをされる師範についていく事は叶いませんか?」
ハツラツと凛々しい声でしっかりと美玲を見据えそう尋ねた。