第3章 月詠の天下り
「そして、鬼狩り様………あなたの剣技は美しい……
その剣技を身に付けるまで…どれだけ己を殺し鍛錬をつまれてきたのだろうか………。
月は……太陽のように夜を……優しく照らせない……。
娘はまだ、"人を守る最高の剣技"を欲している。
お導きいただけないだろうか………」
この男の子息も同じことを言っていた。
それに加え神話の神に例えてくる。己の剣技は弟が存在することで沸き上がる嫉妬から生まれた憎悪から成るもの……。
それをなぜ、これ程の者がそう言うのか………。
月は所詮派生の剣技。
それのどこが美しいのか……、
知らぬものが申すな。
なぜこの者は剣技に美しさを見て、強さを求めぬ……
あぁ。努力は泥水をすするような血の滲むような努力はいか程にもしてきたのだ。
それでも、"至高の剣技"にはたどり着けぬのだ。
そこでハッと気づく。これは、娘への言葉ではなく全て私の事を憂いて言っているのだと。
この者には、私の何かが見えている。
どろどろに心の海となって蓄積しすぎた、ヘドロのような心の濁り。
そしてこの武人が言う
"月は太陽のように夜を優しく照らせない"
"人を守る最高の剣技"
という言葉がひどく突き刺さって離れない。
確かに鬼狩りの振るう刀は人を救済するもの。
しかし、それ以外にもこの者はなにかをつかんでいる。
私はそれが知りたいと思った………。
しかしこの者はもう、息絶える………。
「戻ってこずともよい……。所詮…この世のものは人が勝手に産み出したもの………。
美玲が"人を守る最高の剣技"を極めたいというのなら……それを極めなさい。
人を助け続けなさい……。
美玲はこれからも家に縛られる必要などないのだ。
己の信念、志を忘れるな………。
己の道は何者にも歩ませてはならぬ。」
この武人がいうことはなぜこうも心を揺さぶってくるのだろう。
私は
知りたいと思った。この武人の思考を……。
私の中の限りなく終わらぬ不快を終わらせるためのなにかを……。
ならば、この武人に育てられた娘に関われば見えてくるのだろうか?
「わかった。この娘が望むとあらば……引き受ける。」
「……どうする。」
気づけば女にそう聞いていた。