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朧 【鬼滅の刃/継国巌勝】

第3章 月詠の天下り


「あぁ。…人を命がけで守ることは容易く出来まい……。」


情けでそう声をかけてやると、


「ありがとう………」


そう言って笑みを浮かべて男は息を引き取った。









男の生家を訪ねて当主、景勝殿は不在との事。


代わりに出てきたのは20の歳をいかないくらいの袴姿の上背な女だった。


女の侍などと思うも、女は言われ慣れているのか、こちらが言ったことを何も気に止めていないようだった。


有栖川家は代々剣術に優れた家柄。その家を女に継がせるのもどうかと思ったが、所詮関係なきこと。


淡々とあの男が残した言葉を伝えてやると、深々と頭を下げて礼を言った。




こやつが、あの男が"妹"と呼んだ人物なのだろうと思うが

あの話を聞いても、不快な感じがまるで感じない。



不思議な女だった。





そして先程この女が、私を感じてとった行動


見事だった。


"頸を斬る"という言葉をしっかり覚えており


鬼の足元に仰向けで滑り込んでいた。


私が飛び越えた塀の目下、鬼の頸が女を追って下を向いていたことで斬りやすかったのだ。


当主・景勝殿が奥で戦っていると言われて物音がする方へ急ぐ。


結果は私はまたしても、御当主と奥にいた別の女を守れなかった。



有栖川美玲は、その光景に膝から崩れ肩を震わせた。

何度もこのような光景を見たがあまり心は痛まなかったというのになぜか、この時だけ違った。


何かが消えてなくなるような……惜しむ気持ちに戸惑った。


景勝殿は、己を支えていた刀から手を離し、私に女を連れてくるように言った。


もう話するのも辛いだろうに姿勢をただして、女と私を見た。



「息子も……私も……あなた様に駆けつけていただいたのに……持ちこたえられず、心苦しいことをした……。

私も家族を………皆守ってやることもできぬような……不出来な父親だったやも知れぬ………。」


「父上……!そんなことはありませぬ!」


鬼狩りであればこそそれは至極当然、あることなのだ。

しかし、この男の声の色は

私が捨ててきた安らぎをも感じさせる不思議なものだった。




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