第3章 月詠の天下り
美玲は、泣きじゃくりながら強い眼差しで鬼狩り様を見た。
悔しい、苦しい、悲しい、恨めしい
その感情を言葉に込めぶつける。
「お願いします…………鬼狩り様……!わたしはまだ家族を守れぬ未熟者………悔しゅうございます。
女でありながら力を持ってしまったわたしには……
もはやその道を極めて参るしか術がないのでございます……!
鬼を斬れるようになりたい!
鬼のような未知な驚異に苦しむ人が増えるのは嫌にございまする!」
娘の言葉を聞いて、幾重にも涙が流れる。
武士たるもの、男である者は涙など人に見せるなというが、もう止められないのだ。
鬼狩り様の表情は何やら心を動かせたのか、その手は僅かに震えていた……。
恐らく息子も何やら言うたのであろう。
美玲は何が起きようとも大丈夫だ。
心根は優しく竹のようにしなやかな子。
私は信じている……。
「わかった。御当主。立派な剣士に育てよう。我が弟と……共に………。」
やはり君は弟がいるのか………。似ているな。
悔しいのだろう。羨ましいのだろう。
故に愛の強いところが根底にあって狂おしいのだ。
「有り難う……。」
「"天は万物において1つとして同じものは作らず
1つとして優劣をつけない"
人は神が母に宿し産み出されたもの。全てが唯一無二の必要な存在だからこそ生きている。
神から賜りし物に勝手に優劣をつけているのは我々人間だ……。
己を貫き生き続けよ。
美玲先に幸伸に会ってくる……。明海と幸伸の子を気にかけてやってくれ………。」
「父上………必ず立派な剣士となりここに戻ります…!」
義理堅く愛情深い子だ。
そう言ってくれるだろうし、そうするであろう。
結果は娘が決めること。
あとは生きたものに全てを任せよう。
弟にも父上にも………幸伸にも会いたい。咲枝殿ももう逝ったのであろうか……。
弟と幸伸が、若い二人の後ろで微笑んでいるのを見た気がした………。
もう、
そちらへ逝こう。
「幸せにな………。」
二人と我が家族にその言葉を残して…………。