第3章 月詠の天下り
「御当主、無理をされるな!」
鬼狩り様にも済まないことをした。2度も続けて私たちの家族を助けられないという事実を……残してしまう。
「鬼狩り様………もうじき………私は死ぬ。
死ぬ前に悔いのないよう話をさせてくれまいか………。」
「息子も……私も……あなた様に駆けつけていただいたのに……持ちこたえられず、心苦しいことをした……。
私も家族を………皆守ってやることもできぬような……不出来な父親だったやも知れぬ………。」
「父上……!そんなことはありませぬ!」
可愛い娘……お前は弟にそっくりだった。
だがお前は女であるがゆえにその力でいじめられ、嫌悪され、苦しい思いをしただろう。幸伸はお前に優しく、いつも泣いているお前に自作の絵本を渡しておった。
仲のよい二人には私たちのようになってほしくなかった。
だから父と違うように育てた。
「美玲……素直に優しく育ってくれたこと父は何よりの誉れだった。
お前にとって良い父であれたならこの上ない幸せだ……。」
「そして、鬼狩り様………あなたの剣技は美しい……
その剣技を身に付けるまで…どれだけ己を殺し鍛錬をつまれてきたのだろうか………。
月は……太陽のように夜を……優しく照らせない……。
娘はまだ、"人を守る最高の剣技"を欲している。
お導きいただけないだろうか………」
「………!!」
「父上?!」
鬼狩り様は目を見開いて私の言葉に驚いていた。
娘も同じくだ……。
こんな父ですまない。でも、お前が行かなければこの青年は闇に飲まれて狂鬼と化すような気がした。
「戻ってこずともよい……。所詮…この世のものは人が勝手に産み出したもの………。
美玲が"人を守る最高の剣技"を極めたいというのなら……それを極めなさい。
人を助け続けなさい……。
美玲はこれからも家に縛られる必要などないのだ。
己の信念、志を忘れるな………。
己の道は何者にも歩ませてはならぬ。」
鬼狩り様………
私の意を汲んでくれるか……?
この子の志を叶えてくださったとき、あなた様の心の嵐も晴れてくれること
祈らざるを得ない………。
「わかった。この娘が望むとあらば……引き受ける。」
「……どうする。」
その言葉に安堵の笑みが漏れた……。