第3章 月詠の天下り
景勝は渾身の一撃で鬼を串刺しにしようとしていたところだった。
その身体はもう腹部に致命傷を負っており立っているのが不思議な程だった。
突如として現れた鬼狩りの男
その剣技を見て、
かつて景勝が己の弟を嫉妬に狂い弟を自害まで追い詰めてしまった過去を思い出す。
全ての神から寵愛を受けていた才色兼備、多才で非のつけようもない程に優しく、容姿も端麗だった弟。
父上は家督を弟に譲ろうとした。
優しい弟は、父の意を悟り、私に家督を継がせるよう遺書を残し頚を吊って死んでいた。
父もその悲しみから後を追い死んだ。
父、弟がいなくなってからわたしは己と向き合った。
そして、自分自身を見つめ許し続けることで
家など囚われず己の信念に真っ直に生き、自らの子にもそう教育した。
目の前の男が過去の自分に思えた。
(なんと悲しき青年よ………)
男が繰り成す技は確かに美麗で神々しく、己よりも優れている事は一目瞭然といったところだった。
(こんなにも……力強く技を出せるまでに………いかほどに己を殺して鍛錬したであろう…………
でも、救ってやろうにも、私はもう死ぬ………
だがこのままにするなと私の身体が叫んでいる……
しかし………この男にも意地というものがあるだろう
どうすればいい……)
景勝は、刀を畳に突き刺してその身を支えた。
その後ろでは、亡き息子に嫁いできた咲枝が息絶えても尚泣きじゃくる子どもを抱えている。その横には駆けつけた景勝の友人が腰を抜かして尻をつき、ガタガタと震えていた。
目の前の鬼は消えてそこには、鬼を葬った"悲しき青年"
がいる。
「父上………」
愛してやまない自慢の娘が目の前で
力なく床に崩れた。
この子は命に問題はなさそうだ。
守ってくれたのか………。君が………。
自然と涙が溜まり口元が緩んだ。
「鬼狩り様………。娘を…お助けいただき………礼を……申しまする。
娘と共に………ここへ……。」
美玲。すまぬ……。まだ支えたかった……。
絶望と悲しみに染まって立てぬ娘を鬼狩り様が支えて連れてきてくださるそれが……
なぜか、心から込み上げるものがあった………
美玲……
私は父として何を残してやれただろうか………