第3章 月詠の天下り
鬼の足元に
防御の構えをもって滑り込む。
屋敷の塀を飛び越えて来たのは
あの"侍の男"継国巌勝の姿だった。
大きな満月に長い黒髪が猛々しくたなびいて
彼の鞘から抜刀する際に生まれた大きな三日月が
儚くも力強く放たれる
何て美しいんだろう
まるで月詠尊様(ツクヨミノミコトサマ)が
天から振ってきたような
これが鬼狩り様の剣技なの……?
一瞬の出来事が、一つ一つの絵となって
切り取られたものが写し出されるように
ゆっくりと進むかのよう
鬼の頚は、その太刀筋にのって
血飛沫と共に空を舞う。
何故だろう、泣いてしまいそうだ。
助けられたからではない。
緊張が溶けたのではない。
不甲斐なさなんて感じていない。
むしろ心が大きく心地よく動いた感覚……。
目の前で鬼は塵となって空に消えた
「すまぬ。遅くなった。」
鬼狩り様の声にハッとする。
「父は奥であと一体と戦っています!」
「行くぞ!」
鬼狩り様は襖を蹴破り奥へ奥へと走っていく。
その後ろを続いて走った。
進めば進むほど血の匂いが濃くなる。
「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおあああ!!」
中から聞いたこともない父の雄叫びが聞こえる。
「月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月(シュカノロウゲツ)」
右足で強く踏み込んだ勢いで大きく切り上げる。
正面に三連の大きく斬り込んだ三日月の刃が目の前の鬼を取り囲むように斬り裂いた。
「ギャーーーーーーー!!」
大きな断末魔と共に鬼は塵となり闇に消えた。
鬼が消失した瞬間に、肩で大きく息をしながら、その体を床に突き刺した刀で支える父の姿があった………。