第3章 月詠の天下り
3人が屋敷から脱出したころ、美玲は、斬っても斬っても再生する鬼の術から逃げる事で必死。
術を刀で斬ることが出来てもそれはほんの一部にしか過ぎないし、次々に隙なく出されるそれにどんどん体力を奪われていく。
「有栖川……それがお前の家の名か。
鬼狩りでないのにここまで私に粘ってかかるとは大した女だ。
”あのお方”から、貴様の家の侍が剣術に特に秀でているから鬼狩りに向かぬうちに消せと言われた。
なるほどなぁ.....。」
”あのお方”とはと一瞬頭をよぎるが、それは事が済んでからでいい。
後ろの様子も気になるが、今はこの鬼を1秒でも長く足止めする事に徹せよと己に言い聞かせている。
それでも止まらぬ嫌な予感と、ここを終わらせられぬ現実に冷や汗に気が狂いそうだ。
これがまだ四半刻ほどしかたっていない出来事にもかかわらず、体感しているその時間はもう半刻以上たっているのではと思わせられる。
一度の鬼のおしゃべりによって与えられた時間で呼吸を整えた。
闇の霧の術が美玲を飲み込もうと襲い掛かる。
その霧を薙ぎ払い、切り刻んで、鬼の背後に背後に回り術を放つ手を腕から斬ろうと試みる。
「父の元には.....、家族の元には行かせない!!」
「やってみろ.....所詮鬼狩りではないのだ。鬼狩りがくるか、朝日が昇るまで持ちこたえなければ勝機はないのが現実だ。」
鬼が腸の煮えくり返るような甲高い声で嘲笑う。
(.....!!)
何かが物凄い勢いでこちらにかけてくるのを肌で感じた瞬間、目を大きく見開き、次の瞬間に美玲は希望の笑みを浮かべた。
鬼はそれを『不気味』ととらえ、不快そうに顔を歪ませる。
美玲はこちらに注意を最大限向けさせ続けようと鬼の足元に大きく滑る。
「月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮」
男の低く響く声と共に黄色の月のような大きな弧を描いた線が鬼の頸を背後から撥ねた。