第3章 月詠の天下り
一方、景勝の方も、腰を抜かした咲枝と桜太郎と誠太郎、そして、明海と孝太郎を背に庇いながら、鬼と対峙している。
この鬼は手が4本ある異形であるが、術使いではない。4本の手に刀を持っていた。
景勝が必死に刀を振るうその後ろで咲枝が明海に話しかける。
「義母上様。おねがいがございます。」
「咲枝さん?」
真剣なまなざしを向ける咲枝に明海は嫌な予感が止まらない。
「ここを突き破って、孝太郎と誠太郎を連れてお逃げくださいませ。
わたしは足を思い切りくじいてしまって走れませぬ。」
「ならば肩を貸しまする!諦めてはなりません。この子たちの母はあなたですよ!」
「充分解っております。ただ、義父上様の負担が大きくなってしまいます。もしもの場合わたしで諦めがつけば時間稼ぎになりますので”二人の後継ぎ”を先に行かせてください。
そのお体では3人お任せするのは得策ではございませんゆえ...。死んでも、桜太郎は私が”最期の母の務め”として守り抜きます!だから!」
その時景勝の額から血が飛んだのが解った。
最強と思ってきた最愛の夫に起きた出来事に顔を青くする。
「義母上様!!早く!!」
その声に押され、渾身の蹴り破って窓を割る。明海は泣きながら泣き叫んで嫌がる子ども二人を女二人で引きはがして両手に抱え込んだ。
「孝太郎、誠太郎!!母は大丈夫です!!美玲様のように強い侍となり世に尽くしなさい!!」
母の剣幕さに気圧され二人は押し黙る。
景勝はそれを後ろ耳で聞きながら己の力不足な様に憤怒し、奥歯をぎりりと嚙み締めた。
「明海!子どもたちを頼む。念のためだ!持ちこたえられるまで逃げよ!!」
「弱いものに構うな!鬼狩りでもない弱者が!!」
叫んでホンの僅かに気がそれた隙に鬼が景勝の腹を裂く。
叫んでは美玲の気を反らせてしまうと声を飲んだ。
明海は目の前の光景に冷や汗と絶叫したい気持ちがせり上がるが、瞬時にこらえる。
「必ず守りまする………っ!幸せにございました。ご武運を!!」
そう言い残して明海は幼子を抱えて走り出した。孝太郎は泣きじゃくっていたが、大人の意志に従って母の言葉を胸に自分で走り出した。
騒ぎを聞きつけた近所の侍が3人きてそのうちの1人が逃げる方に協力した。