第1章 序章 女が剣を握る理由
「美玲、元気そうだな。長男であるにも関わらず、家をいつもすまない。」
兄・幸伸の口癖だ。
子ども3人を連れて稽古に来る度にいつもそう声をかける。
優しく、頭が低い。
「いえ、父上が道場をついでいい。剣術を続けていいと言ってくださるので当然の事にございます。
それに、うちは父が変わり者であるお陰で自由に育てていただいたではありませんか。」
対する美玲の答えもいつもと変わらない。
兄妹はいつも己の能力を生かせる道へと進ませてくれた父に感謝と尊敬を感じていた。
「あぁ。真にその通りだ。何か困ったことがあらば申せ。兄は何時も美玲の味方だ。
忘れるな。」
「はい!お気遣い有り難うございます。」
にこやかに返事を返すと、子どもの頭を撫でるようにガシガシと力強く頭を撫でる。
美玲は、髪が乱れるのを嫌がりはするが、兄のその暖かい手が大好きだった。