第3章 月詠の天下り
「父上!!わたしが、強い方のバケモノを請け負います!!父上は母上と咲枝さんと子どもたちを!」
咄嗟に瞬時の判断力に優れた景勝を美玲は家族の方へ行かせた。
「相分かった! 死ぬな!!生き延びよ!!」
景勝が走る方へ2体が追う体制になり
瞬時に見抜いた強い鬼と対峙する。
「女...、若い食べごろの女だ...。旨そうだ。」
その声と言葉に寒気が全身を抜ける。
そして陰からおぞましい数の手が美玲をとらえようと伸びてきた。
間一髪、月明かりの方に飛退き事なきを得る。
「鬼狩りでなさそうだが、勘が鋭い女。昨日殺した男も勘だけは鋭かったなぁ...。」
鬼の言葉に、兄を殺したのはこの鬼もだと仇討の眼を強くした。
「そうね。兄は剣術には恵まれなかったけど、人のためになると感覚が鋭くなる人だったわ。
あなたも殺したのね?」
「フフフフ。あぁ、やはり昨日の役人風体な男の妹か...。殺し甲斐があるねぇ...。
どう殺してほしい?
どう俺に食われたい?」
鬼の言葉に心底腹が立ったが、冷静にならねば思うつぼだ。
鬼の出方を待ちながら、出来るだけ体力が続くようにと息を整える。
「生憎、喰われてやるつもりはない。残った家族はわたしと父上で守ります。
鬼狩り様も近くにおられることをお忘れなく。」
後ろでは一番下の桜太郎の泣き叫ぶ声が聞こえる。それと同時に父が刀を振るう音、鬼の肉が切れる音が生々しく聞こえる。
早く行きたいのに、”あの人”が来てくれるまではここにいる鬼を足止めする事以外術はないのが歯がゆい。
「俺は顔も肉もいいお前を狩れたらそれで満足だ...。」
「血鬼術 魔天楼(マテンロウ)」
闇の霧が襲い掛かるも、飛退いて鬼の背後に回り刀を構える。
「日輪刀でなければ意味がないのだよ。切っても切っても再生する。鬼は疲れない。速度も衰えない。
君は反応速度も、動きも早いねぇ。
いつまで持つだろうねぇ...。」
体格にして朝来た鬼狩り様より高いだろうか。そして、闇夜で見るにしては全てが真っ黒い影で袴と着物の袖の影が風にたなびいている。視線は美玲をとらえ、その目は桃色に不気味な眼光を放っている。
(早く来てください.....。継国様.....。)
美玲は刀の切っ先を鬼の頸に向けながらそう願った。