第3章 月詠の天下り
日没の時を迎え、風呂を済ませた明海、咲枝、子ども達を護身用の刀をもって月明かりのよく当たる部屋へと寝かせた。
景勝はその右隣の部屋で刀を支えに座って仮眠をとり、美玲は景勝と反対の部屋で、影と暗がりを警戒しながらあたりの気配に目を配る。
(いつもと違う薄気味悪い空気を感じます…。でもまだはっきりとはよく分からない。)
辺りを見回しながら、常に抜刀できるよう、刀に手を置いた。
外は朧気な満月に黒い雲がかかろうとしていて、遠くに蛙の声と風で草木が揺れる音だけが聞こえてくる。
一般の者からすればただ美しい夜の景色。
ただ、何かが違うように感じた。
美玲はただ何事もなくこの美しい景色が美しい景色のまま過ぎ去る事を祈った。
時刻は如何ほどすぎただろう。
朧月も高くまで昇り、もう深夜の刻限だ。
ザーっと草木の葉が風に揺れる音が響く。
突如として、その空間が重くなるのを感じた。
美玲はそれに気づいて目を見開く。
(来た!!どこだ.....!!)
一気に緊張が高まり最大級の警戒を張る。
静かに子どもたちが眠る部屋の襖をあけるも、まだそこにはなにもいない。
ただ、神経を研ぎ澄まし全神経を使って辺りを観察する。
すると少しずつ近寄る気配が何かを話していることに気づいた。
耳を凝らすと
(あぁ.....恨めしや.....恨めしや....。あの男と同じ血の匂い...。殺したい...殺したい.....!!)
(あの男.....?!兄上か?)
すかさず、胸元にぶら下がる笛を取る。
ピー―――!
警笛を鳴らせば、父のいる方の襖が開くのと同時に影から黒い手が伸びてきた。
咲枝の頭に手を伸ばしてきたそれを、美玲は畳ごと叩ききる。
「咲枝さん!母上! お逃げください!!
子ども達3人を...!!」
「美玲!!」
ずさっと後ろに音を聞くとそれは、景勝が鬼を斬った音だった。
ゴトリと不気味な音を立てて鬼の腕が落ちるも、すぐに新しく手が生えてくる。
「気味が悪い。切っても鬼狩り様の刀でなければ効力がないのか!!」
景勝は悔し紛れにそう言った。