第3章 月詠の天下り
「鬼は対峙するだけでもわれわれには戦い続けるのみしか術がない。私は大丈夫だ。
折角のその美しく愛らしい顔も、もう疲れ切っておる。
感覚と素早さ、持久力の方は美玲に敵わぬ。
家族を一人でも守るために.....
頼むぞ。」
家族という言葉を引き合いに出されて、父は跡目を己に継がせるための覚悟を試していると思った美玲は素直にその言葉に従うことにした。
「わたしが起きましたら、父上も仮眠をお取りくださいませ。」
「あぁ。そうさせてもらう。話はこれまでだ。知らせる笛は常に首に下げておくように。」
「心得ました。」
美玲は景勝に手をつき深く頭を下げた。
そして部屋を出ようとするとき、
「美玲。これからも自分が進みたい道に進め。この世はまだまだ剣術が必要なのは絶対だ。
極めれば極めた分、己の心技体が洗練される。」
父は鬼狩りになれとでも言いたくなったのかと少し不機嫌になる。
”餅は餅屋”というではないか.....。
しかし、この時にこの言葉を聞かされて、背中に冷たい風を感じるような気もした。
「父上。不吉なことを申すのは辞めてください。
わたしは父上も、父上の指南役のお仕事も、この道場も大好きでございます。
あまり悲しい事ばかり言いますと怒りますよ!」
困った顔で優しいまなざしが胸を痛くさせる。
「相済まなかった。明日も共に迎えられるよう、最善を尽くしていくぞ。」
「はい。では父上、失礼いたします。」
そういって美玲は襖を閉めた。