第3章 月詠の天下り
その後、明海と咲枝が子どもたちを連れて帰ってきた。
景勝と美玲の心以外は使用人も家族もいつもどおり。
景勝のことも、城へ呼び出されたと言っても、疲弊からか問い詰める者はなかった。
”何事もなければいい”
”早く兄の葬式を上げたい”
”平穏に戻って欲しい”
不安なまま昼が過ぎ、また緊張で眠れぬ夜が近づいていく。
「美玲帰ったぞ。少し話をしよう。」
景勝が美玲に声をかけた。
「もうお戻りで......、ご無事で何よりです。わたしもお話がございます。」
二人は、離れに入り、家族の出入りを禁じた。
景勝が美玲に先に話すよう促すと
美玲は、継国巌勝という鬼狩りが遺言を伝えに来たこと、その遺言の事。
鬼の対処の仕方
今日の家での皆の様子などを淡々と報告した。
景勝は、実際に兄の亡骸を見てきたそうで、傷だらけで服を赤く染めていたにもかかわらず、穏やかな顔をしていたといっていた。
その場にいた鬼狩り様の団体の隠という立場の人から少し話を聞くことが出来て、今回幸伸を襲ったものが、どのような種の者かを聞くことが出来た。
闇や影を使って移動してまわる厄介な種であるらしく、今回逃したものは3体の中で主となるものと、それに次ぐ者だったという。
「今夜は月明かりの下で眠るようにさせよう。
そして、我々は気配を察知することに長けてはいるが、今宵は特に気をつけよ。」
景勝は昔から悪い事が起こる前はとにかく感が利く。
今回これだけ念を押すのはかなりまずい事態なのかもしれない。
朝来た鬼狩り様に伝えておけばよかったと思っても、致し方がない事だった。
「美玲。疲れていてはいざというときは戦えぬ。暫く仮眠しなさい。」
「父上こそ、殆ど寝ておらぬではないですか!しかも、お出掛けになられて疲れていらっしゃるのは父上の方です。」
景勝はもう40を過ぎた体。体で言えば全盛期はむしろ美玲の方。
しかし、共に明日も変わらぬ日々を送るためにも父にこそ眠って欲しいと思う美玲に父として頑なだった。