第3章 月詠の天下り
「……駆けつけた時はまだ息があり、言伝てを賜った。
『己の才と生きる道を照らしくれた父に感謝する。
恩も返せず先立つ無礼をお許して欲しい。』
『皆、己の志を貫き胸を張って生きられよ』
と。
……言うことを憚られるが、……幾重にも引っかかれた傷による…失血死と思われる。
狙われていたのは女。
……相当な時間傷つきながら粘り、時間を稼いでいたものと思われる。」
「兄は、優しく正義感の強い人でしたから…。
遺言、しかと受け取りました。有難うございます。」
涙が溢れそうなのを堪えて頭を下げるも、その聞かされた遺言が、兄の声で脳内で再生されると、全身から何かが溢れ出るようにジリジリと身を焼くような感覚になる。
今顔を上げれば武士としての醜態をさらす気がして、顔があげれなかった。
「……家のものに言っていないのは…賢明な判断だ。まだ鬼は……今宵も人を喰らおうとする。
……用心する事だ。
…今回の有栖川幸伸の死、…重ねてお悔やみ申す。」
そう言って男は美玲に背を向けた。
「あの!」
景勝や自ら感じていた不吉な予感から、聞かなければと思い呼び止める。
「もし、そのバケモノに出会ったとき、どう対処すれば......。」
「......我々の持つ特殊な刀で頸を撥ねる事。......特殊な刀がないならば、ひたすら戦うのみ。......朝日が昇るまで耐え続けねばならぬ。
....今宵は私がここと隣町の巡回だ。....もし現れれば、駆け付けるまで持ちこたえよ。」
男が淡々と述べる事はあまりにも過酷な内容。
(鬼は太陽とその刀がなければ死なぬとは)
その事実に少し表情が険しくなる。
「畏まりました。わざわざご足労有難うございます。お気をつけて。」
美玲は深く頭を下げた。
男は今度こそ立ち去った。
(不愛想だけど不思議な人。
緊張するわけでもないのに溜め込んだ話し方……。
あんなに大きい人初めてお会いしました......)
美玲は
暫く去っていく男の後ろ姿を見送った。