第3章 月詠の天下り
「家主がおらぬなら跡継ぎをと頼んだのだが……。」
男性は顔をしかめてそう言った。その顔には額と首から顎にかけて燃えるような赤い痣があった。
「わたしがここの道場と父・景勝の跡目を引き継ぐものでございます。
有栖川美玲と申します。兄・幸伸の事は父から聞いております。
女跡目でございますが、わたしで良ければお話し願えませんでしょうか………。」
大衆の反応は一様に、女が当主や後継ぎだと聞くと嫌悪感がむき出しになる。
美玲はもう、それには慣れていたので平然と穏やかに言った。
「……それは…失礼した。私は、…ここの警備に当たる者。継国巌勝と申す。
…この度は、有栖川幸伸殿を……救済できず死なせてしまったこと誠に申し訳なかった。
お悔やみ…申し上げる………
昨夜、最期を…看取ったのは私だ……。」
一応社交辞令で謝るが、その声には心も何もなく、不愛想だとも思った。
しかし、故人の家族の前だからということと、間に合わなかったという不甲斐なさはこの男にあるのだと思いながら、
巌勝に謝意を述べる。
「継国様が悪いわけではございません。
兄の代わりに女性を助けてくださったこと、感謝してもしきれませぬ。
一人で誰にも看取られないで逝くよりは、あなた様がいてくださっただけでも良かったと思います。」
美玲は一礼した。
顔を上げると、少しだけ表情が緩んでいることに気づく。
しかしそれはわずかな変化。
そして、大事なことを伝えるべくその瞳は美玲の方を向いた。