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朧 【鬼滅の刃/継国巌勝】

第3章 月詠の天下り


景勝は美玲を見やり、長い息を吐いた。
心を落ち着かせるように。

「美玲、おいで………。」

景勝は手招きをして近くによるように促した。
それに応えるよう美玲は父の前へ進んだ。


子どもの頃から何度も聞いた安心させるための声だった。


「今、この屋敷には誰もいない。みんな近くの広場に遊びに出掛けた。

今だけ、存分にあいつのために涙を流そう………。」




父と娘は幸伸の死を悼んで、子どもの頃のように抱き合って涙を流しあった。











その後、景勝だけが"殿に声がかかったので出る。夕刻には戻る"と言伝てろと言い残して馬に乗り隣町へ向かった。


幸伸に会うためだ。





(いつものように…………いつものように………)


そう言い聞かせながら道場の掃除と家の掃除に精を出した。

使用人が手伝いに屋敷に入り、掃除を共にする。
庭をはいていると門から人が呼ぶ声がした。


「お尋ね申す。こちらは有栖川幸伸殿の生家か。」


男性の声。若い使用人が対応した。


「あ、あの……お名前とご用件は……」


といいながら、横の戸から話を聞きに一度出た。


男性は使用人が外で対応しているようだがまだ若い男性のようだった。低く柔らかい声だ。

何やら話をしている。


「美玲様!お客様です。この町に例の件で警護にきてくださった御武家様のような方が、幸伸様から言伝てをと……。」


使用人は少し顔を染めていた。動揺していないことから亡くなったことは伏せてくれたのだとわかる。


「そうですか……わかりました。行きましょう。

対応有り難うございます。」

感謝で笑みを浮かべて使用人に言った。

「めっ滅相もございません。」

と自分の頬を両手で包んで幸せそうである……。

首をかしげなから、男性が待っている正門へと足を進めた。


男性の他に数人の気配。しかし、姿を隠している。恐らく彼に何かあった時のためだろう。



正門をグッと押し開けると、自分よりはるかに大きく長い髪を後ろでひとつに括った、紫地に黒柄の袴姿の男が立っていた。


あまりの背高さに面食らい、思わず片足を後ろに戻してしまった。

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