第1章 出会いと別れ
「ふむ……やはりこの家には稀血が居るようだな。」
お気づきだろうが、この男、月彦は鬼の始祖"鬼舞辻無惨"である。そして天野家の稀血とは熊に襲われた優のことだ。傷口がまだ塞がっておらず、血が流れ出しているので、より稀血だということが分かりやすくなっていた。
優は勿論、家族も稀血だということは知らない。何故なら鬼にしか稀血かどうかなどという判断はつけることが出来ないのだ。
「月彦さん、夕餉はどうしますか?」
父が尋ねる。
「いや、夕餉は必要ありません。少しばかり食べてきました故、」
「そうでしたか、では月彦さん、ごゆるりとお過ごしくださいませ。」
そう言い父は怪我をした優の元へ戻った。
だが父も床に伏せてる身だ。客をもてなすので精一杯だろう。
「お父さん」
「どうした?優」
「お姉ちゃんは?」
「少し夜風に当たってくると言っていたよ。まあ直ぐに戻るさ。」
「ふ〜ん……早く戻ってきてくれないかなぁ。お姉ちゃんに言いたいことがあるんだ。」
「そうなのかい?だったら父さんが聖に言ってあげるかい?
もう夜も更けているし、優はもう寝てしまった方がいいだろう。」
「やだ!優が自分でお姉ちゃんに言わなきゃダメだもん!」
「おやおや……それはすまなかったね。
じゃあ聖が戻ってくるのを一緒に待ってようね。」
「うん!」
今は子の刻になったばかりだ。聖が出ていったのは戌の刻程だったからかなり時間が経ってはいる。だが聖なら大丈夫だろう。
という確信が父にはあった。あれだけ厳しく武術を教えていたのだ。並大抵の男ならいとも簡単に吹き飛ばせるだろう。
――― 一刻ほど前、聖の家の近くの家が鬼に襲われた。
優の稀血につられてこの村へやってきてしまった。そう、それが鬼舞辻無惨なのだ。
この村に降りてきたばかりの時時、かなりの強い稀血の匂いがした。
だがこの村へ入った時にはその匂いは薄れていた。だがまだ稀血が居るのには変わりがない様だった。
「黒死牟、」
ベベンッ
琵琶の音がなると同時に空中に突如襖が現れ、その中から一体の鬼が出てきた。
「はい。どのような御用でしょうか……無惨様。」
「お前はこの村から去った強い稀血の人間を探せ。まだ近くに居るはずだ。それとその人間の家を調べろ」
「御意」
鬼舞辻無惨は黒死牟という手下の鬼に稀血を探すよう命じた。