第1章 出会いと別れ
『ハア…ハア…ハア…』
やはり着物でここまで動くのはキツかった。今度から山へ来る時は袴に着替えよう。
「お姉ちゃん……!」
『優!!!!!』
急いで優の出血の具合を見る。かなり深い傷を負わされてしまっている。嗚呼……痛かっただろうに……。
『今血を止めるけど痛かったら言って。』
「うん……」
ビリッ
着物の袖を引きちぎる。それなりに気に入っていた着物だったがそんなのは気にしていられない。人命が先だ。
急いで優の肩に縛りつけギュッと締める。
「ツッ……」
『ごめん、頑張ってこの痛みは。』
『取り敢えずはできた。早く山を下ろう。』
「うん。」
私は優をおぶって駆け出した。早く医者へ。
ドンドンドンドンドン!
『弟が熊に襲われて怪我をした!助けてくれ!』
「それは本当かい!?早く中へ!」
ゆっくりとおぶっていた優を下ろしベットに寝せていく。
『できる限りの止血はした。あとは頼んでもいいですか?熊を殺したまんまにしてきたので。』
「ああ構わないよ。また死んだ熊に集る動物が出ても嫌だからね。気をつけて行ってらっしゃい。」
『分かりました。お願いします!!!!!』
「それにしても聖ちゃん……一里近くある病院まで走って来るとは……しかも熊を狩った後だと言うが……信じられんほど体力があるな……。」
「いくらここが最寄りの医者がいるところだと言っても少しばかり私たちは気が引けますよ。」
「ああ実に興味深い。どうしたらあんなに体力がつき走れるのだろうかね。」
そう言いながら医者と看護婦は優の処置をテキパキと進めていく。
「これは相当深い……幸い太い血管などが噛まれていないのが命拾いだな。
……優くん、傷はどのくらい痛むかい?」
「なんて言うんだろう、すごく熱くてジンジンするよ。」
「こりゃまずい!熱が出るぞ!すぐに氷嚢と熱冷ましの薬を!」
ザッザッザッザッザッザッ
『急いで熊の所へ行かなくちゃ……!』
そんなことを言っているがもうあと2丁ほどだ。まだたいして時間は経ってない。言うて四半刻すら経ってない。常人なら走ってもゆうに四半刻は過ぎるだろう。