第1章 出会いと別れ
"その娘の血を奪え"
鬼舞辻が黒死牟の脳に直接語りかける。
「……それでだ。稀血のお前の血を分けてくれないか?」
きっとこの娘の稀血は少量飲むだけでもその辺の雑魚鬼でも下弦ほどの力は手に入れることが出来るだろう。
『え?血?何に必要なの?』
「無……いや東京の医者が稀血についての研究をしている。だが稀血は数が少ないために、地方の役人まで稀血探しを求められたのだ。」
黒死牟は基本的に嘘が付けないのでかなりキツい。
『お医者様が稀血の研究をしてるの……それに協力できるのなら分けてもいいかも……』
今回ばかりは根が優しいのもいいことにはならないだろう。
「そうか……ではこの注射器にお前の血を採ってくれ」
そう言い黒死牟は聖に注射器のセットを渡した。いや、渡したと言うより投げ渡したという方が正確だろう。まだ二人の間には2丁程の距離がある。何故聖がその距離に疑問を抱かないのか。それはただ聖が天然すぎだからだ。
『うん。』
注射器を箱から出したのを確認し、黒死牟は更に一丁ほど離れた。血を採るためには皮膚に穴をあけなければならない。二丁程でも既に血にやられてるというのに離れなければ恐らく倒れてしまうだろう。
ぷす
聖が注射器を腕に刺した。
たちまち辺りは稀血の匂いでいっぱいになった。
思わず黒死牟は膝を着いてしまった。
「ッぐっ……」
っ……この稀血の匂い……一滴で人間1000人ほどの力に相当するだろう……恐らく……この娘を食べると無惨様に並ぶほどの力を手に入れることが出来る……
……たった小さな穴からここまで香るとは……容易に雑魚鬼も近づけまい。
『えっ?大丈夫?』
「っ……問題ない。さあ……早く血を……」
『あ……はい、』
聖は黒死牟に血が入った桐の箱を投げ渡した。
「ああ。」
黒死牟は血を受け取ると直ぐにその場を去った。
「……あの娘……只者では無いな……あの身体の完成度だけではなく、あれほどの強さの稀血を持つとは……これは鬼側にとってかなりの出来事だ……」
その頃鬼舞辻は聖の家を見つけていた。黒死牟が聞き出したのを見た訳では無いが、黒死牟の目を通して見た娘の体の作りが似た人間を探していたのだ。
そして……
「夜分遅くに申し訳ありません……少し道に迷ってしまいましてね……」