第5章 守りたいもの 錆兎
すると、黙って聞いていた義勇が口を開く。
「錆兎に聞いた。お前はもう“乙“なんだろう。俺達の同期で乙まで上がってる奴は他にはいない。真菰は別だが。お前は十分頑張ってると、俺は思う。だから、もっと自分に自信を持て」
珍しく義勇が、沢山喋っている。
義勇が私の事を励まそうとしてくれたんだと分かって、嬉しくなった。
「ありがとう、義勇」
私がお礼を言うと、義勇は微笑み私の頭に手を伸ばす。
ーパシッ
しかしその手は私の頭に触れる寸前、横から伸びて来た錆兎の手によって止められた。
「………錆兎?」
義勇の腕を掴む錆兎に、私も義勇も驚いて……
でも…掴んでいた錆兎自身が一番驚いていた。
「っ…悪い!」
「いや、大丈夫だ」
錆兎は掴んでいた手をパッと離して慌てて引っ込めたけれど、その場がなんとも言えない空気になってしまった。
何これ…どうしたらいいんだろ…
こんな変な空気になったのは初めてで、皆どうしていいか分からないみたいで、暫く謎の沈黙が続いたその時…
「お部屋のご用意が出来ました」
部屋の支度が整ったと女将さんが呼びに来てくれた。
……助かった。
錆兎も義勇も口には出さなかったけれど、それが顔にもろ出ていた。
「ありがとうございます。…義勇、行くか」
「……あぁ」
「紗夜、俺達行くから。ゆっくり休めよ」
「うん、ありがと。錆兎、義勇、おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみ、紗夜」
錆兎が先に部屋を出て、義勇が襖をパタンと閉めた。
…さっきの錆兎は、どうしたんだろう。
よく分からないけれど、焦っているような、そんな顔をしていた。
義勇が私の頭を撫でようとしていたのが、嫌だった?
……そんな、まさか。
錆兎も義勇も、修行してる頃は私の頭撫でまくってたじゃん。
でも、ほんとに嫌だったなら…
それって…
考えてたら、胸がザワザワしてきた。
「………分かんない。寝よ」
用意してもらった簡単な着物に着替え、ふかふかのお布団に入って、目を閉じる。
明日から暫く任務は無理だなぁ。
暫く蝶屋敷でお手伝いさせて貰えないか頼んでみようかな。
明日からの事を考えていたら、段々と眠気が襲ってきて…
私はいつの間にか、夢の世界へ誘われた。