第5章 守りたいもの 錆兎
紗夜が居た部屋を出て、向かいの部屋に入る。
義勇も続けて入って来たのか後ろで襖を閉める音が聞こえた。
さっきの俺は、どうかしてた。
何故あそこで手が出たのだろう。
修行時代なんか義勇が紗夜の頭を撫でるのくらいよくあったじゃないか。
いつもは我慢出来てたのに…
義勇はどう思っただろうか。
突然阻止されて、不快な思いをしただろうか。
一応、もう一度謝っておこうと思った。
「義勇、さっきは…悪かった」
「いや、構わない……もう寝るだろう。これ」
「?…あぁ、ありがとう」
気にしてたのは俺だけか。
少しほっとした。
俺は義勇に渡された、布団と一緒に用意されていた簡素な着物に着替える。
脱いだ羽織と隊服は部屋の端に畳んで置いた。
「義勇、灯り消すぞー」
「あぁ」
灯を消すと、障子を通して月明かりが部屋を優しく照らした。
紗夜は、もう寝ただろうか。
ぼんやりとそんな事を考えていると、隣の布団の義勇が話しかけて来た。
「錆兎」
「ん?」
「お前は…… 紗夜が好きなのか?」
「……………………はぁ⁈」
俺は思わず飛び起きた。
まさか義勇が…こんな事を言うとは思わなかったからだ。
「錆兎、静かにしろ」と義勇に嗜められるが、「いやお前のせいだぞ!」と言ってやりたいくらいだった。
「はぁ…」とため息を吐き、俺はそのままパタンと布団の上に倒れる。
「なんで、そう思ったんだ?」
「…俺が、紗夜の頭を撫でようとしたのが嫌だったのかと思った」
「なっ…!」
「好いてる子が他の男に触られるのは嫌だって言うアレじゃないかと思ったんだが……違ったか?」
俺は、開いた口が塞がらなかった。
いや、違わない…違わないんだが…
まさか、あの鈍感な義勇が…他人の気持ちに気付けるとは!
これはおかしい…失礼かもしれないが…今日の義勇はやけに感がいい。
一体どうしたんだ……
もしかして……