第5章 守りたいもの 錆兎
月明かりが優しく私達を照らす中、錆兎は速度を落とす事なく走った。
錆兎の背中で心地良い揺れを感じながらふと前を見ると、藤の花の家紋の家が見えてきた。
門の前に着くと、錆兎は私をそっと下ろす。
ここまで走ってきても、錆兎は息一つ切れていない。
流石鬼殺隊。
「足、大丈夫か?」
「うん、ありがとね」
門から玄関までなら一人で行けるかなと思ったけれど、思ったより痛みがあってひょこひょこ歩きになってしまう。
「…… 紗夜」
「え?…わぁっ!」
見兼ねた錆兎がひょいっと私を横抱きにした。
「ちょっ…錆兎!」
「これの方が早いだろう」
「一人で大丈夫だっ「夜分遅くに失礼する!」
私の抗議は錆兎に遮られた。
もう黙ってろってこと?
程なくして屋敷の玄関が開き、中から40代半ば位の女の人が出てきた。
ここの女将さんかな?
「鬼狩り様でございますね。あらまぁ、そちらの方は…」
「足を痛めているので、医者に診せたいのですが…」
「では、お医者様をお呼びしますね。さぁ、中へお入りください」
私はこんな抱き抱えられた姿を他人に見られた恥ずかしさで、顔から火が出そうだった。
でも、錆兎はそんな事全く気にもしていないようで、玄関で私を下ろして草履を脱がせると、またもや抱き上げてそのまま私を部屋まで運んで行く。
私は錆兎にされるがままで、なんだか甘やかされている気分だった。