第5章 守りたいもの 錆兎
すると錆兎は私に背中を向け、片膝をついてしゃがんだ。
「ほら、背負ってやるから」
「えっ、でも…なんか悪いし…隠しの人が来るまで待つよ?」
「隠しが来るまで待つより俺が今連れてった方が早いだろ。いいから、遠慮するな」
「…うん」
そっと肩に手を掛けて、その背中に身体を預ける。
「…よっと。軽いな、ちゃんと食べてるか?」
「うん、食べてるよ」
「そうか?お前は食が細いからな、心配だ」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがと」
私を背負って立ち上がった錆兎は、林の中を歩き始めた。
こうしておんぶされていると、修行時代を思い出すなぁ。
「昔、よくお前の事おんぶして鱗滝さんの家に帰ったな」
「うん、懐かしいね」
「お前、よく泣いてたな。鱗滝さんの仕掛けた罠に嵌って」
「だって!毎回死ぬかと思うくらい過酷なんだもん!泣きたくなるよ!」
あの空気の薄い山の中を、全力で駆け抜ける。
しかも、要所要所にある鱗滝さんのはった罠を掻い潜りながら。
横から飛んでくる刃物。
落し穴の中にびっしり埋め込まれた鋭い突起物。
もはや私達を殺す気満々としか思えなかった。
「お前いつだか我慢出来なくて『鱗滝さんのばか!』って喚いてたな」
「うっ、あれは…今思えば、申し訳なかったと言うか…」
「鱗滝さん、あの後珍しくしょげてたぞ」
「ええ⁈そうなの⁈」
「あぁ、俺達の事、自分の子供みたいに思ってくれてるだろう。娘に嫌われた気分だったんじゃないか?」
「知らなかった…今度帰ったら謝っとく…」
「そうだな。それに、鱗滝さんがあそこまでやってたのは、俺達のためだ。俺達が、この先の戦いで死なないように」
「そうだね…」
鱗滝さんにはほんとに感謝してる。
多分、あれが無ければ私達は最終選別を突破出来なかったかもしれない。
そういえば、最近帰ってないな、狭霧山に。
今度、休みの日に会いに行こうかな。