第5章 守りたいもの 錆兎
呆気なく、一瞬で終わってしまった。
「手応えの無い鬼だったな」
「うん。取り敢えず、人が消える事件は今の鬼達の仕業って事でいいのかな?」
「あぁ、他に人のいる気配もない。人攫いの線も無いだろう。
よし、終わりだ。帰るぞ」
元来た方向へ戻ろうと錆兎は歩き出そうとする。
「紗夜、行くぞー」
「え、あ!待って!」
ワンテンポ遅れてしまった私は、錆兎に置いてかれると思って急いで足を一歩前に出した…つもりだったのに…
「わっ…きゃあ!」
「… っ紗夜⁈」
ーグキッ
「……っ…」
暗くて足元がよく見えなかった。
前に出そうとした足が、地面からぽこっと盛り上がる様に飛び出してる木の根っ子に上手いこと引っかかり、私は次の足が出せずにそのまま前に倒れた。
慌てて駆け寄った錆兎に手を貸してもらって起き上がる。
「大丈夫か⁈」
「いったーい!」
「どこが痛い?」
「うぅ…左足首…」
「見せてみろ」
膝を立てて座り足袋を脱いで見るけれど、薄暗くてよく見えない。
さっき膝も打った。
じんじんする。
キュロット式の隊服なので、膝が擦り剥けているのかもしれないと思った。
「暗くてよく見えないが…捻ったんなら腫れてくるかもしれないな」
「うわーん、やだー」
「全く、乙の隊士が何やってんだ」
「いたっ」
やや呆れ気味の錆兎にピンと一発デコピンを食らう。
「だって、置いてかれると思って…」
錆兎は一瞬びっくりしていたけど、ふっと目を細めて笑った。
「置いてくわけないだろ」
そう言って錆兎は私の頭をぽんぽんと撫でた。
頭を撫でるその錆兎の手は優しくて、胸がきゅんとなって、自分の頬っぺたが赤くなっていくのを感じる。
バレてない…よね?
薄暗くて良かった…