第5章 守りたいもの 錆兎
歩き始めて暫く経つけれど、特に変わった気配は無かった。
耳を澄ませてみるけれど、ザッザッと歩く私達の足音くらいしか聞こえない。
「居ないね…」
「そうだな。居ないに越したことはないが…もう少し奥に行ってみるか」
木の上の方は、枝同士がぶつかり合って密になり、月明かりも入らない。
きっと昼間はそれが丁度良く日光を遮っているのだろう。
鬼が潜むには打ってつけの場所だ。
居そうな、気はするけれど…
「気配は…ないかな」
「いや、うまく気配を消す鬼もいるから、気を付けろ。……待て紗夜っ、止まれ」
「え…」
錆兎が足を止めたので、私も同じように止まる。
錆兎は何か感じ取ったのか、前方を凝視していた。
もしかしてと思って、私も同じ方向を注意深く見てみる。
すると……
ーザザザザザッ‼︎
「「!」」
前方から鬼が二体勢い良く此方へ向かって来た。
「来るぞ!」
「うん!」
繋いでいた手を離し、抜刀し、構える。
ーダンッ!
一体は目の前で止まったかと思うと、もう一体は跳び上がり上空で宙返りしながら私達の背後に着地した。
敵に背中を見せてはいけない。
錆兎と背中合わせになる様に、私は背後に回った鬼と対峙する。
『チッ、なんだよ鬼狩りか!久々の人間だと思って楽しみにしてたのによぉ!おい!俺らの縄張り荒らすんじゃねーよ!』
錆兎と対峙する鬼が声を荒げた。
「俺“ら“?鬼って群れないんじゃないの?」
「例外もいるって事だな」
しかもまだ来たばっかだし、荒らしてないし。
『何だっていいだろう。さっさと殺して喰ってしまえば鬼狩りでもそうでなくても一緒さ』
私の目の前にいる鬼がニヤリと笑った。
「後ろ、任せた」
「うん、そっちよろしく」
「任せろ」
『ごちゃごちゃうるせーんだよ‼︎』
二体の鬼が同時に襲い掛かってきた。
「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り!」
「水の呼吸 肆ノ型 打ち潮!」
ーーーーーザンッ‼︎
二体の鬼の頸が転がり、その身体はボロボロと崩れていった。