第5章 守りたいもの 錆兎
確かに、誰かに触れていると言う安心感からか、さっきまでの恐怖心が薄らいでいく。
ただ、今度は任務中にこんな事してていいものかという戸惑いが湧き上がってきた。
「錆兎っ…あの…」
「ん?どうした」
「やっぱり、手を繋ぐのはどうかと…」
「嫌か?」
「え⁈えっと…嫌じゃ無いけど…」
嫌じゃ無いとか、何言ってんだろ私…
「一応任務中だし…あと…恥ずかしい」
「恥ずかしいって…よく一緒の布団で寝てただろ。それと殆ど変わらないんじゃないか?」
「ちょっ…!それは小さい頃の話でしょ!他の人が聞いたら誤解しそうだからそれ!」
鱗滝さんに引き取られて間もない頃。
夜が怖かった。
両親が鬼に殺された夜を思い出すから。
一人で寝れなくて、錆兎の布団に入れさせてもらってた。
泣いている私を錆兎はそっと抱きしめてくれた。
錆兎の腕の中にいると凄く安心できて、そのおかげで私は眠ることが出来たのだ。
「一人で行けるならいいが…今手を離したら、ついて来れるか?」
ちょっと考えたけど、やっぱり誰かに触れてないと、恐怖心がぶり返しそうだった。
あ、それなら…
「いつもみたいになずなに来て貰えば…」
「いや、待て」
なずなを呼ぼうとしたら、それを錆兎に止められる。
「なんで…」
「なずなは呼ぶな。今日は俺がいるだろ。俺にしとけ」
錆兎があまりにも真剣な顔をしているので、びっくりした。
それはまるで、なずなに嫉妬しているようにも感じられて…なずな、鴉なのに。
「うん…分かった」
「なら、よし」
錆兎は満足そうに微笑んだ。
手、繋いだだけなのに、なんでそんなに嬉しそうに笑うんだろう。
これじゃあ私、勘違いしちゃいそうだよ…
「何か気になる気配とか感じたら教えてくれ」
「うん」
いつの間にか陽は完全に落ち、月が顔を見せていた。
錆兎は私の手を引いて、真っ暗な林の中をズンズン歩いていく。
私はその錆兎の後を、手を引かれながらついて行く。
繋がれた手から錆兎の温もりが伝わってきて、嬉しくなった。
前を歩く錆兎は、3年前より大人になっていて、とても男らしくて、見ているだけで胸がドキドキする。
さっきの恐怖のドキドキとは違う、場違いなドキドキを感じながら、錆兎と一緒に林の中を歩いた。