第1章 ほんとの気持ち 冨岡義勇
数人分の視線を感じる…
ハッとして2人で周りを見回すと、神崎を始め、蝶屋敷の三人娘、その辺に転がっていた隊士数人が皆此方を凝視していた。
真っ赤な顔をして。
そう、ここは蝶屋敷、機能回復訓練の鍛錬場。
二人きりではないのだ。
「おっ、お二人は、今日からお付き合いされるという事で宜しいんですね⁉︎」
神崎にやや興奮気味に確認される。
何だこれは…
改めて言われると猛烈に恥ずかしいんだが…
「そうだ」
俺がそう答えると、
ワァァァー‼︎
歓声と共に「おめでとうございますー‼︎」の祝福の言葉をもらう事となった。
公言したわけではないが、確実に隊内にに広まるのだろうなと思う。
まぁ、それでもいいかと俺は思った。
隣の紗夜の方を振り向けば、体が小刻みに震えている。
「どうしたんだ⁉︎」と心配になり声を掛けると、
「なんかっ……なんか、もうっ!」
紗夜は何故か目の前に置かれていた薬湯に手を伸ばし…
おいそれはっ…
「恥ずかしすぎますーーー‼︎」
バッシャーーン!
「ぶっ…⁉︎」
俺に目掛けてぶっかけてきた。
「やっとくっついたかァ?」
「そうみたいです。ほんと、世話が焼けますねぇ」
「全くだァ」
鍛錬場の戸の外側で、中の様子を覗く姿が2つ。
胡蝶と不死川だ。
「残念でしたね不死川さん」
「あァ?」
「冨岡さんに紗夜持ってかれちゃいましたね」
「…いいんだよ。アイツが決めたんだ。ただ冨岡ってのがムカつくけどなァ」
「紗夜、いい顔で笑ってますね。安心しました」
「そうだなァ…」
あの笑顔の隣にいるのが自分ではないのがもどかしい。
だが、好いた女の幸せを願うのが男ってもんだ!と自分に喝を入れる不死川。
「幸せんなれよォ」
それだけをそっと呟き、その場を後にした。