第4章 初めてのキスはレモン味 伊黒小芭内
「私の説明分かりにくかったかな。竹下さんごめんね。じゃぁ、冨岡くん悪いけど暫くお願いできるかな?」
「…承知した」
冨岡は一瞬怪訝な顔をしたが、一応承諾し、竹下の指導にあたった。
「オイ、ありャどういう事だ?」
「戻って来てみれば、一体何なんでしょう?」
俺とは別の会議に出ていた同期の不死川と胡蝶が、アレは何だと訝しげな顔で俺達に問いかける。
「見ての通り、冨岡が竹下の指導中だ」
「竹下の担当はお前らだろ?」
「俺は今から会議があるから月城に頼むつもりだったんだ」
「そしたら…竹下さんが、私じゃ分かりにくいから冨岡くんがいいって…」
「はァ⁈オイそりャただの我儘だろ⁈」
「全く、何を考えているんでしょうか。紗夜さん、もっと怒ってもいいと思いますよ?」
不死川も胡蝶ももう呆れ顔。
しかし月城はどうやらそうではないようだ。
「うーん。でも、他の部署に馴染めなくてここに来たわけだし、あんまり厳しくして仕事が嫌になっちゃったらかわいそうじゃない?もう少し様子見てもいいかなと思うの」
月城のお人好しが炸裂している。
困っている奴を放って置けない。
実際、“匙を投げられた新人が月城によって立派に実績を残せるほど成長を遂げた“と言う事が何度もあり、月城はそれを評価されて部長から直々に新人教育をお願いをされる程なのである。
きっと、竹下はどこかの部署で匙を投げられ、“開発部の月城なら何とかしてくれる“という話になったのだろう。
評価されるのは嬉しい事だが、今回に限っては月城が気の毒でならない。
厄介事を押し付けられたのだ。
無理しなければいいのだが。
「そうですか、紗夜さんがそう言うのなら。では、何かありましたら言ってくださいね。お手伝いしますから」
「ぶっ倒れる前にちゃんと言えよォ」
「うん、ありがとね。しのぶちゃん、不死川くん」
不死川と胡蝶は自分のデスクに戻って行った。