第4章 初めてのキスはレモン味 伊黒小芭内
昼休みから戻ると午後の仕事を直ぐ様開始した。
兎に角早く帰りたい。
この苦痛から逃れたい。
その一心だった。
「伊黒さぁん!ここ教えてくださぁい!」
はぁ、またか。
30分前にも何か教えた気がするんだが…
隣のデスクの竹下が、また分からないと言っている。
分からないと言った所をみてやると、それはさっき教えた所と全く一緒だった。
「おい、これはさっき教えたはずだが」
「すみませぇん。メモ取るの忘れちゃってぇ」
「……では、メモの準備をしてから俺の話を聞くように…」
「はぁい!」
そして俺はこの新人竹下に、30分前と全く同じ説明をもう一度する羽目になった。
昼休みに補充したはずの体力とメンタルは、この竹下によって半分ほど削られた。
時計を見ると、2時半を指していた。
今日は3時から会議が入っている。
そろそろ行って準備をしないと。
「月城、俺は3時から会議だから、暫くよろしく頼む」
「うん、分かった」
「竹下、何か分からない事があったら月城に聞け」
「ええ〜、もう行っちゃうんですかぁ⁈聞きたい事あったのにぃ」
「竹下さん、分からない所どこかな?私が教えるね?」
月城が竹下のデスクに移動しようと動く。
しかし、何と竹下はそれを拒否した。
「私、伊黒さんが戻ってくるまで月城さんじゃなくて冨岡さんに聞きますね!」
「「は?」」
月城と声が被った。
おいおい何を言っているんだこの新人は!
しかもよりによって何で冨岡なんだ!
「冨岡さんこれ教えてくださぁい!」
「?お前の担当は伊黒と月城じゃないのか?」
「伊黒さん今から会議なんですぅ」
「ならば月城に…」
「月城さんの説明じゃ私分かりにくいんですよぉ」
何を言い出すかと思えば…
説明が分かりにくい?
ここの部署で一番教えるのが上手いのが月城だ。
だから本来新人指導は毎年月城メインで動いている。
俺は本当は月城の補佐でオマケなんだ。
一体コイツは何を考えているんだ。
我儘にも程があるだろう。
なんだか無性に腹が立って来た。
「おいっ、いい加減に「伊黒くん、いいよ」
竹下に一度喝を入れてやろうかと思ったのだが、それは困った様に微笑む月城に止められた。