第3章 君の笑顔が好きだから 煉獄杏寿郎
「明日は、朝から任務だったな」
「はい。ここから少し遠いので、朝御飯を食べたら出ます。一泊するので、帰りは……明後日になります」
心なしか紗夜の声はしょんぼりとしていた。
俺は身体を少し離して紗夜の顔を覗き込む。
「どうした?」
「なんでもないです」
「なんでもない様には聞こえないな。言ってごらん?」
すると、紗夜は消え入りそうな声でぽつりと呟いた。
「……泊まりの任務は行きたくないです」
「行きたくない?どうした、仕事が怖くなってしまったか?」
「違います。……だって……」
任務が嫌だと言ったのは初めてだ。
いつもの紗夜らしからぬ言葉に驚いたが、次に告げられた紗夜の言葉に俺はさらに驚く事になる。
「泊まりで行ったら…杏寿郎さんに会えないもん」
紗夜の目に涙が溜まっていく。
「寂しい…」と言ってとうとう泣き出してしまった。
よもや!
俺に会えなくて寂しいということか!
しかも“会えないもん“とか…可愛いな!
男としては最高に嬉しいことこの上ない。
しかし、俺達は鬼殺隊だ。
任務に行かなくては鬼が切れない。
任務を拒否して犠牲者が出てしまうのは避けなければならない。
自分の我儘で任務に行きませんは許されないのだ。
だが俺も男だ。
好きな女をわざわざ鬼が出る様な危険な所へなんか行かせたくない。
家で俺の帰りを待っていてくれて、「おかえり」と出迎えてくれたらどんなに嬉しいか…
そんな未来を作るために、俺達がいるんだ。
平和な世のために、鬼を狩る。
君と共に歩む未来のために…
紗夜の目からぽろぽろと溢れる涙を指で優しく拭ってやる。
「俺も明日は遠方で泊まりの任務なんだ。終わり次第行ってやりたいのは山々なんだが…すまない」
「いえ、大丈夫です。…我儘言ってごめんなさい」
そう言うと、紗夜はすまなそうに、力無く微笑んだ。