第3章 君の笑顔が好きだから 煉獄杏寿郎
「怖くないよ〜こっちおいで〜」
紗夜が仔猫にそっと手を差し伸べると、初めは警戒していたものの、紗夜の優しい声に安心したのか少しずつ紗夜の方へ寄っていく。
「みゃー」
差し伸べた掌に仔猫の身体が完全に乗った所でヒョイと抱き上げた。
「いい子だね〜!杏寿郎さん!救出大成功です!」
やったよ〜!と満面の笑みでこちらへ手を振る紗夜。
その眩しい笑顔に俺も頬が緩んだ。
「紗夜、よくやった!では、こっちへ降りておいで!」
「はーい!よいしょっ…」
紗夜が木の枝から飛び降りようと体勢を立て直したその時…
ーミシッ…
「え…」
嫌な音がした。
折れる…そう思った次の瞬間…
ーミシミシッ……バキッ‼︎
「きゃっ…‼︎」
仔猫と紗夜と折れた木の枝全てが地面に向かって落っこちてきた。
この時俺が動く必要は無かったかもしれない。
彼女は鬼殺隊なのだから、これくらいの高さなら難なく着地出来たのだから。
だがもう身体が勝手に動いていた。
彼女の身に何か起きたら俺は…!
助けなければ!
そう判断してしまったのだ。
ーがしっ!
落ちてくる彼女を俺は横抱きでしっかりと受け止めた。
「大丈夫か⁈」
「あ…大丈夫です!…ありがとうございます」
「そうか、良かった。仔猫も無事だな」
「はい、元気そうです」
仔猫の無事を確認し、安堵の吐息を漏らす。
「君も、無事で良かった」
「杏寿郎さん…」
見上げた瞳と目が合う。
頬を薄らと染め、こちらを見つめる瞳に目が離せなくなる。
何故だろう。
そうしたくなった。
目の前の柔らかそうな唇に己の唇を重ねたい…
紗夜を抱き上げたまま、俺は顔をゆっくり近づけていく。
紗夜も、そっと瞳を閉じた。
…あと少しで触れ合いそう…
その時だった。
「兄上!」
「杏寿郎!」
父上と千寿郎がこちらへ走ってやってきた。
慌ててぱっと紗夜から顔を離す。
…俺は何を!
父上と千寿郎が来なかったら確実に…!
自分の行動に自分で驚いた。
よもや!顔から火が出そうだ!
見ると紗夜も顔を真っ赤にしていた。