第9章 あなたの愛に包まれて*後編 上* 宇髄天元
でも…。
さっき視界に入ってしまった自分の姿。
目的も聞かされていなかった今日の約束。
どこか公園にでも行くのかなーなんて思っていた。
そのためチョイスしたのはジーンズにスニーカー。
上は辛うじてシフォンのブラウスを着ているけれど、上からニットのロングカーディガンを羽織っているためシフォンブラウスの可愛さを隠してしまっているような気がしてならない。
正に動きやすさ重視。
思いっきり子どもと出掛ける用ではないか。
可愛さの欠片もない。
一瞬フリーズしてから戻ってきた宇髄さんは、今の自分の姿を気にする私に向かってこう言った。
「今着てるのでも充分可愛いじゃねぇか」
なんて嬉しいことを言ってくれるのかこの人は。
でも私が気にしてしまうのだ。
そう言う宇髄さんは、今日はいつもと違ってネイビーの上下セットアップをお洒落に着こなしている。
すれ違う女の子達が頬を染めながら通り過ぎていくほど格好いいのだ。
それなのに、こんな貧相な私が隣にいたら、釣り合わない。
こんな素敵な宇髄さんの隣にいることが、申し訳ないと思ってしまうのだ。
「でも、これはデート用ではないので…。
家帰ってもう少しマシな物着て来ます!では!」
くるっと方向転換し、元来た道を引き返そうと一歩踏み出した私を、
「ちょっと待て」
宇髄さんはいつもと違う低い声で、ガッと腕を掴み私の動きを制した。
ハッと後ろを振り返ると…
「行かせねぇよ?」
にこりと微笑みながらも若干の怒りを感じる…、そんな笑顔の宇髄さんが…。
さっきは何言っても許してもらえそうとか思ったけれど、今回はそういうわけにはいかないようだ。
そこではっ!と気付く。
そうだ、今日は宇髄さんの誕生日。
なのに、私の我儘でデートを中断するとか。
私、最悪だ…。