第8章 あなたの愛に包まれて*中編 下* 宇髄天元
「…なぁ」
「はい」
「コレ」
「へ?……!」
俺が“コレ“と指差す先にあったのは…。
いつの間にそんなことしてたんだか。
行かせてたまるかとでも言うように、俺のパーカーの袖をしっかりと握る紗夜の手。
なんだろうな、この心地良いむず痒さ。
紗夜は「失礼しました…」とそろっと手を離し布団で顔を隠してしまう。
無意識ね…。
それでも、今の行動には紗夜の本当の気持ちが表れているような気がしてならない。
「一緒がいい?」
「…なに、が?」
「寝んの」
「……ん」
ほらやっぱり。
いや、俺と寝たいとかこの上なく嬉しいだろ。
病人相手にナニをしようなんて思っちゃいねぇが、好きな女と朝までくっついていられるなんて幸せ以外の何者でもねぇ。
この時俺の中で“別で寝る“という選択肢は綺麗さっぱり無くなっていた。
「いいよ、寝てやる」
俺がそう言うと、紗夜は布団から顔を出し、ぱぁっと顔を輝かせるも、
「やっぱ、ダメです…うつるかも…」
寂しそうに、また布団を被ってしまう。
熱を出しててもちゃんと理性が働いたらしい。
ただ、紗夜には悪ぃがここまできてやっぱり別で寝ましょうなんて受け付けらんねぇの、俺は。
「俺風邪ひかねぇから心配すんな」
「その自信はどこから…」
こんな時まで俺の心配なんてしなくていい。
風邪ひいた時くらい俺を困らせるくらいの我儘だってなんだって聞いてやる。
お前をうんと甘やかしてやりてぇんだ。
まぁ、風邪ひいてなくたって甘やかしてやるけどな。
「俺ガンジョーなのよ。だから大丈夫だって、な?」
「んー…」
素直になればいいものを。
そうできないのは、俺を気遣う優しさが邪魔をしてるんだろう。
そんなら少し言い方を変えてやるか。
「じゃあ、もし俺がお前らの風邪貰っちまったら、そん時は…俺の看病してくんねぇ?」
これならうつしてしまうかもの心配も、万が一うつしてしまった時の後ろめたさも多少は軽くなるだろ?
さぁどうだ。
すると紗夜は、すっぽり被っていた布団をガバッとめくった。
「もちろんです!」
迷いのない潔いお返事。
思わずフッと笑みが溢れた。