第8章 あなたの愛に包まれて*中編 下* 宇髄天元
美術館を出た瞬間、俺は弾かれたように駆け出した。
こんな大事な事、内緒にされてたことがショックだった。
紗夜の性格を考えれば、理由は大体予想はつくが、それでも教えて欲しかった。
なんだこれ、女々しいな…
余裕が無さすぎて俺じゃねぇみたいだ。
とりあえず、今は奏真の様子が気になる。
俺は急ぎ目で紗夜達の住むアパートを目指した。
走ったせいか、然程かからずにアパートに到着する。
気が急いてしょうがない俺は、息を整えることも忘れ急いでチャイムを鳴らした。
中から直ぐにこっちへ駆けてくる音がし、
「はーい」
返事と共に玄関のドアがゆっくりと開かれた。
「どちらさ…まぁ⁈」
「よぉ」
玄関を開けた紗夜は目を丸くして俺を見上げていた。
「なっ…な⁈」
驚き過ぎて言葉も出ないか、口をぱくぱくさせる紗夜。
多分「なんで?」って言いてぇんだろうな。
「館長に聞いた。奏真は?大丈夫か?」
「あ…あの、少し熱がありますけど、大丈夫です」
俺がそう聞くと、紗夜は少しバツの悪そうな顔をして俯いた。
「ちょっと、顔見てってもいい?」
「……へ?」
「お見舞い」
「でも、移っちゃうかも…」
熱を出して寝込む子どもに会わせろとか、自分でもどうかと思う。
でも俺は奏真が心配だ。
それに、内緒にされて実は少し腹が立っているのも事実。
この怒りの矛先が紗夜に向かないうちに気持ちを沈めたいが為、少々強引だがこんなとんでもない要求をしてしまう。
「少しだけ、な?」
「でも……」
「渡したいものもある。館長からのな。中に入れてくれたら渡してやる」
「え……」
最終手段、館長の名前を出す。
我ながら卑怯だ。
嫌な奴だな俺。
紗夜は困りながらも「分かりました」と頷き、俺を家の中へと招き入れた。