第8章 あなたの愛に包まれて*中編 下* 宇髄天元
つぅことはだ、今まで拒んでたのは個人情報云々ではなく、紗夜から頼まれたから。
思いっきり個人的事情だったわけだ。
佐々木さんはバレちゃったねぇと苦笑いする。
「胡蝶さんごめんね。休み明けに僕が月城さんに目一杯怒られるからさ、今は許してくれないかな?」
「はぁ、仕方ないですねぇ。約束破ったんですからしっかり怒られて下さいね?」
やれやれ全く、と呆れながらも微笑む胡蝶サン。
これじゃあどっちが上司か分からねぇな。
だが、こんな風に下が上に物を言える。
まるで家族のようなアットホームな雰囲気の職場。
俺は好きだ。
「さて、月城さんなんだけどね」
あぁ、やっと本題に入ってくれる。
一体何があったんだろうかとあらゆる事態を想定して、俺は若干身構えた。
「お子さんがね、風邪を引いたそうなんだ」
……風邪?
一瞬拍子抜けしちまう。
正直もっと凄いの想像してたわ。
骨折して入院、とか。
いや、そんなことねぇよなぁ。
風邪だって拗らせたら派手に大変だ。
こうしちゃいられねぇ。
「ちょっと行ってくるわ。佐々木さんありがとな」
「あ、宇髄くんちょっと待っててくれる?」
今にも走り出しそうだった俺に待ったをかけ、奥の部屋へと引っ込む。
暫くすると、紙袋を手に戻ってきた。
「はいコレ」
「あ?なんだこりゃ?」
中を覗いてみれば…子供服?
「本当は今日来たら渡そうと思ってたんだけどね。これうちの子のお下がりなんだよ」
行くならついでに持っていけと手渡される。
「ん、了解。んじゃ行くわ。胡蝶サン、怒鳴り込んで悪かったな」
「いいえ、お気を付けて」
二人に礼を言って、俺は美術館を後にした。