第8章 あなたの愛に包まれて*中編 下* 宇髄天元
「あれ、宇髄くん?今日は早いねぇ。もう来てたんだ」
カウンターの奥の部屋から顔を覗かせたのは、40代半ば程の物腰柔らかな雰囲気の男。
ここの美術館の館長だ。
「大きな声が聞こえたから何か揉めてるのかなって思って出てきたんだけど、どうしたのかな?」
「佐々木館長、申し訳ありません。この方が…」
胡蝶サンが今までの一連の流れを佐々木さんに説明する。
「そっか、月城さんね」
「悪ぃな佐々木さん、無理にとは言わねぇが…」
「なんて言うけど本当は無理にでも教えて欲しいんだよね?顔に書いてあるよ。相変わらず分りやすいなぁ宇髄くんは」
そう言って佐々木さんはハハハッと笑う。
…マジか。
そんなに分かりやすい?俺。
いや、そうじゃねぇ。
佐々木さんが鋭いんだ。
学生時代から世話になってるが、本当にこの人には隠し事が出来ねぇ。
ただ、俺はこの人のことは心から信頼してる。
親とうまくいかなくてグレてた俺に手を差し伸べてくれた。
多くを語らなくても全てを分かってくれ、いつも俺の欲しい言葉を返してくれる。
懐の深い温かな人だ。
朗らかに笑う佐々木さんに釣られて俺もハッと笑った。
「そんなら俺のお願い聞いてくんねぇ?」
「いいよ、…と言いたいトコだけど。僕も立場上部下の情報をホイホイと教えるわけにはいかないんだよ。だから、そうだねぇ…、宇髄くんの返答次第ってとこかな」
「返答次第?」
なんだよその駆け引きみたいなヤツ…。
まるで紗夜を人質に取られたみてぇだ。