第8章 あなたの愛に包まれて*中編 下* 宇髄天元
くそっ、なんでいないんだよ…
まさか…なんかあったのか⁈
焦った俺はそこにいた受付の女に詰め寄った。
いつも紗夜の隣で業務をこなす、紗夜と同じ受付嬢だ。
首からぶら下げた社員証には『胡蝶』と書かれていた。
「オイ!紗夜は⁈いないのか⁈」
胡蝶と言うらしいその受付嬢は、カウンターを乗り越えそうな勢いの俺に一瞬目を丸くした。
が、プロ根性なのか、何事も無かったかのようにまたスッといつもの営業スマイルに戻す。
「申し訳ございません。月城は本日休暇を取らせていただいております」
「…休み…?」
用事は明日なんだろ?
じゃぁなんで今日も休みなんだ?
いや、今日明日の用事なのか?
ホント、一体どうしたんだよアイツ…。
電話もメールも繋がらない、焦ったいこの状況に苛つきを隠せない俺は、この受付嬢にさらに詰め寄った。
「なんで休みなんだ!」
「何故と言われましても。プライベートですのでお答えできませんよ?」
このまま噛みつきでもしそうな俺を前にしても、涼しい笑顔を崩すことなく対応にあたるこの女。
慣れてんのか?
さすがプロ。
感心するわ。
「なぁ、あんた知ってんだろ?頼むから教えてくれないか?」
なかなか引き下がらないしつこい俺に、さすがのプロも段々と笑顔が引き攣ってきていた。
だがそんなの気にしちゃいられねぇ。
頼む!と懇願するが、胡蝶サンは小さくため息をつき、困ったように眉を下げる。
「そう言われましても、困りましたねぇ。…失礼ですが、月城とはどういったご関係なのでしょう?」
どういった…?
「…友達」
としか言えなかった。
それ以上なのだと言えたらどんなに良かっただろう。
そうできないのがこの上なくもどかしい。
「お友達ですかぁ。残念ですが、ご友人の方であってもベラベラと個人情報を話してしまうのはあまりよくありませんので」
…そりゃそうだ。
胡蝶サンの言うことはごもっとも。
家族ならまだしも、友人じゃなぁ…。
いくら親しくしていても、所詮他人だ。
そんな簡単に教えるわけにはいかねぇよな……。
胡蝶サンの言葉に自分の立ち位置を再確認した俺は、少し冷静になる。
しょうがねぇ、もう直接家に行くしか…。
強行突破するか否か。
考え始めた、その時……