第7章 あなたの愛に包まれて*中編 上* 宇髄天元
その男は入ってくるや否や、長椅子に座る俺達をみて声を上げた。
「あれ、月城さんじゃん!来てたんだ」
「あ、こんばんはー。はい、少し前に」
見た目俺と同じくらいの歳か?
人当たりの良さそうなこの男は紗夜に気さくに話しかける。
どうやら知り合いのようだ。
紗夜もにこっと笑ってあいさつなんかしてやがる。
なんだか気に入らねぇ。
「奏真くん、こんばんはー」
「こんばんは!」
奏真にまで爽やかにあいさつしやがった。
それだけなんだが、何故だか益々気に入らねぇ。
「今日も絵本持ってきたんだ」
「うん!てんげんおにいちゃんによんでもらうんだよ!」
「てんげんおにいちゃん?」
そこでやっと俺の存在に気付いたらしいそいつは、奏真に合わせていた目線をゆっくり上にずらしてくる。
パチっと目が合うと、俺に向かってにこっと笑い「どうもー」と軽くあいさつしてきた。
なんだよ、余裕の笑みってか?
さっきから何故かこいつに妙にイラつく俺は、「ども」とわざとぶっきらぼうに言ってやった。
「あれ、なんか俺嫌われてる?」
「え?そんな事ないですよね?」
「…別に?」
なんだこれ、まるで俺が子供みてぇじゃねーか。
腹立つ。
とりあえず早く帰ってほしいと思った俺は、目の前の男に用事を済ませるよう促す。
「おいあんた、洗濯モン取りに来たんじゃねぇのかよ」
「あ〜忘れてたよ!月城さんがいたから嬉しくなっちゃってつい、ね?」
「え?そうなんですかぁ?」
「ね?」と言いながらさりげなく俺に視線を向けたこの男。
へぇ…、なるほどねぇ。
こいつ、段々と本性現して来やがったな。
そんでもって、大分遊び歩いてやがる。
昔の俺と同じ匂いがする。
『君がいたから嬉しくなった』なんて女が喜びそうな台詞吐きやがって。
だが言われた紗夜の方はキョトンとして首を傾げている。
紗夜には全く効き目が無いらしい。
残念だったな。