第7章 あなたの愛に包まれて*中編 上* 宇髄天元
「これがいい!」と絵本を選ぶと、何を思ったか奏真は俺の手を掴み長椅子まで引っ張っていく。
「てんげんおにいちゃんここね」
座れってことか。
言われるがまま椅子に腰掛けると、絵本を片手に奏真が俺の膝の上によじ登ってくる。
なんだなんだ、どしたよ?
座る位置が決まると、奏真は絵本を開き、にこにこ顔で…
「じゅんびできたよー!」
読めってことかい!
「っははは!奏真、お前いい根性してんなぁ!」
もうそれが当たり前かのように俺の膝に陣取る奏真に笑いが込み上げる。
「ごめんなさい…」と紗夜は顔を両手で覆うが、別に俺は全く問題無い。
むしろ懐かれたのだと思えて嬉しいくらいだ。
子供は嘘つかねぇからな。
「よぉーし、この宇髄天元様がド派手に読み聞かせしてやるとするか!」
「ど…ド派手な読み聞かせってなんですか?」
「そりゃあ、あれよ。俺様のこの美声をだなぁ、この建物全体に響き渡るように「そっ、そんな大きい声じゃなくて普通に読んでください!」
そんな大きい声は…!と慌てふためいて俺を止めようとする紗夜が可笑しくてつい笑っちまう。
本気じゃねぇのに慌てちまって、可愛いなぁ。
「冗談だっての、落ち着けって」
そう言ってポンと頭を撫でてやると、頬を桃色に染め恥ずかしそうに目を逸らした。
一通りの経験はあるはずなんだが、紗夜はあまりこういう事に慣れていないようだ。
そんなウブな反応が見ていて飽きないというか、男心をくすぐられる。
さて、膝の上のおチビさんがお待ちかねだ。
今日は何の絵本だ?
最初の1ページ目を読もうと息を吸ったタイミングで、紗夜達の隣の洗濯乾燥機が終わりを告げる。
その僅か数秒後、入口の自動ドアが開くと、若い男が一人、建物の中へと入って来た。