第6章 あなたの愛に包まれて*前編* 宇髄天元
忘れようと思ってたのに…
思い出してしまった自分に不甲斐なさを感じて、下唇を噛み締め俯いた。
「おい、どうした?」
「…っ、…ごめんなさい…」
顔を上げたら心配そうに私を見つめる宇髄さんがいて「…ママ?」と不安な声で奏真が私を呼んだ。
子供にまで心配掛けて、何してるの私は。
これじゃいけないとさっきの記憶を頭から振り払って、精一杯笑って見せた。
「ごめんね、大丈夫だよ!」
「ぐあいわるくない?おなかいたくない?」
「うん!全然!」
「……」
すると、宇髄さんが席を立って私の隣に移動して座った。
「宇髄さん?」
宇髄さんは黙ったままで、どうしたのかなって思ってたら…
ふわっ…と、温かいものに包まれた。
一瞬何が起こったのか分からなかったけど、ふわっと香った爽やかな香水の香りが、あの時ぶつかった時と同じだったから…今私は宇髄さんの腕の中にいるのだと分かった。
「あのっ…どうしたんですか?」
「お前なぁ、どうしたはこっちのセリフだっての。自分の顔鏡で見てみ?何かあったとしか思えねぇわ」
気付かなかった。
私そんなに酷い顔してたんだ…
「何があったかは聞かねぇ。でもな、そんな顔で飯食っても不味いだけだろ。暫くこうしててやるから…元気出せ」
暫くって…こんな所で…
周りの視線が痛いです…
でも、あったかい…
宇髄さんて、お日様みたいな人だな
辛くて張り詰めていた気持ち、すっと溶かしてくれるの
宇髄さんがあやすみたいにずっとよしよしってしてくれて、嬉しい。
「ママげんきになった?」
「うん、もう元気だよ」
私がそう言うと、奏真はぱぁぁっと笑顔になった。
「奏真!今度ママが元気無かったらな、こうやってぎゅってしてよしよししてやるんだぞ」
「わかったー!」
「子供に変な事教えちゃダメですってば!」
「元気出たか?」と宇髄さんは柔らかく微笑んだ。
宇髄さんが微笑み掛けてくれて、さっきの嫌な記憶はどこかに飛んでいってしまったみたい。
変わりに私の心をぽかぽかと温かくしてくれた。
ありがとう、宇髄さん。
今日食べたご飯、ちゃんと味がしたよ。
帰りのレジにいた店員さんの顔が真っ赤になっていて、見られてたんだと思って恥ずかしかった。
暫くここのファミレス来れないな、と思った。
そしてお会計は全部宇髄さんがお支払いしてくれた。
