第6章 あなたの愛に包まれて*前編* 宇髄天元
「んで?」
「え?」
「子供がいんなら………旦那もいんだろ?
今日は?一緒じゃねぇの?」
旦那もいんだろ?と聞いてきた宇髄さんは、心なしかその表情が僅かに陰ったような、そんな気がして…
私の、気のせいかなぁ。
「だんなってなぁに?」
「旦那ってのはなぁ……難しいわ子供に説明すんの。
あー…言い方変えるぞ?
お前のパパは今日一緒に来たのか?ってお前のママに聞いたんだよ」
奏真はポカンとしてしまった。
あ、しまった…
出ていったあの日から、父親の事は奏真には一切話をしていない。
もう少し大きくなってからと思っていたけど、宇髄さんに聞かれているのに何も答えないわけにはいかないし、どうしよう…
私が考えあぐねていると、さっきまでポカンとしていたと思った奏真が口を開いた。
「ぼくはパパはいないよー」
「は?いない?」
「うん」
「今日はいないのか?」
「ちがうよ、ずっといないよー」
耳を疑った。
奏真が、そんな事を言うなんて…
そっか…奏真はもう分かってたんだ。
自分に父親はいないんだって。
「マジか…」
宇髄さんは、やっちまった…とばつの悪そうな顔をした。
ちょっと微妙な空気になってしまって、でも宇髄さんが悪いわけじゃないし、そんな顔をさせてしまって、なんだか申し訳なくなってしまった。
「すみません、なんか…」
「いや、悪かったな、野暮な事聞いちまって」
「え?あ、全然!大丈夫ですから、気にしないでください」
「そんならいいけど……奏真だっけ?」
宇髄さんは奏真に話しかける。
「パパいなくて、寂しくないか?」
「ぼくさみしくないよ。だってママいるもん!」
そう言って、奏真は無邪気に笑った。
宇髄さんは微笑み、大きな手で奏真の頭をぽんぽんと撫でる。
その微笑みは、穏やかで、優しさに満ち溢れていた。