第6章 あなたの愛に包まれて*前編* 宇髄天元
「ごめんなさいー!」
顔面をぶつけて地味に鼻が痛かった。
鼻を押さえながら謝罪の言葉を述べると、結構背の高い人だったらしく、上から声が聞こえた。
「っと…あぶねーぞ。ちゃんと前見て歩けよ?
……月城紗夜さん?」
あれ?この声…
パッと顔を上げるとそこにいたのは、
「さっき受付した“金曜日の人“ー!」
「はぁ⁈」
ヤッバイ!
テンパってしのぶさんの付けたあだ名の方で呼んじゃった!
金曜日の人は案の定至極不機嫌そうに思いっきり顔を顰めた。
「何だそのふざけたあだ名は!脳味噌爆発してんのか⁉︎
俺様の名前は“宇髄天元“だ!しっかり覚えとけ!」
「はいっ!」
「分かればよろしい!」
めっちゃ怒られた!
でも許された‼︎
ん?何で私の名前知ってるの?
「あの、どうして私の名前…」
「あ?そーれ、月城紗夜で合ってるだろ?」
宇髄さんが指差したのは私の首から下げてる社員証だった。
「あ、そっか。付けてるの忘れてました」
私がそう言うと、宇髄さんは目を丸くした後ブハッと吹き出した。
「っはは!面白いなお前。派手に気に入ったわ」
なんか分からないけどウケてる。
思いっきり笑ってる宇髄さんは、自然体で清々しい素敵な笑顔だった。
「ごめんなさい、ぶつかってしまって」
「いや、俺の方こそ悪かった。急な用事が入っちまってな。最後まで行くより順路逆走した方が早いと思って戻っちまった」
「そうだったんですか。あ、用事大丈夫ですか?」
「あぁ、…そろそろやべーな。そんじゃ、俺行くわ。またな、月城さん」
宇髄さんは私の頭をぽんと一撫ですると、そのまま順路を逆走して行ってしまった。
初めてお話ししたけど、素敵な人だなぁ。
しのぶさんはチャラいって言ってたけど、…服装はそうかもしれないけど、気さくな感じで、意外と話しやすい人だった。
ぶつかった時の、微かに香った爽やかな香水の香りがまだ残っていて、なんだかちょっとドキドキしてる。
さっきの話の続きだけど、気があるってのが嫌じゃないって話。
ほんとは、そうだったらいいなって思ってるの。
だって、私……
あの人の事、ずっと前から気になってたから……