第6章 あなたの愛に包まれて*前編* 宇髄天元
「しのぶさん、このチラシのストックまだありますか?」
「ええ、こちらに。他に必要なものありますか?まとめてそっちに持っていきますよ?」
「じゃあ、あと館内のリーフレットもお願いします」
平台に置いてあるチラシ類の確認と、グッズの在庫のチェックが終わった所で16時を過ぎた。
「今日は来ますかね?“金曜日の人“」
「“金曜日の人“?」
「ほら、いつも金曜日の夕方来るじゃないですか。派手なチャラい感じの」
「チャラい…あ〜!でも毎週来るわけじゃないし、今日はどうでしょうねぇ」
私達が話しているのは、月に1、2回、いつも金曜日の夕方やってくる人の事で、確かに服装が…大体いつもフード付きのパーカーに、ダボついたパンツで…ちょっとヤンチャしてますみたいな。
でもきっちり絵画は鑑賞していくそうで、私は17時で帰ってしまうから知らなかったのだけれど、毎回18時の閉館時間ギリギリまでいるそうだ。
芸術関係の仕事の人なのかな?
そんな話をしていると、正面の自動ドアがウィン…と音を立てて開いた。
入口から男性のお客様が一人入ってくる。
あ、あの人は…
それは、今し方しのぶさんと話していた、“金曜日の人“だった。
「大人一枚よろしく」
「はい、500円になります」
ぴったり500円を頂き、チケットをもぎって半券を渡した。
「ありがとさん」
彼はいつもの様にお礼を言いながら微笑んだ。
爽やかさの中に大人の色気が含まれた魅力的な微笑みに、いつも少しドキッとしながら展示場に向かうその背中を見送る。
「あの方、紗夜さんに気があるのでしょうか」
「…ぇえ⁈そう…ですか?」
「なんとなくですけど。この前紗夜さんが他の方の対応中で、私の方は空いてたのですが、あの方紗夜さんが空くまで待っていたんですよ」
そんな事があったなんて、知らなかった。
でも、それだけで気があるって言うのはちょっと気が早いんじゃ…
目の前のしのぶさんはずっとにこにこしていて、冗談で言ってるのか本気なのか、ちょっと分からなかった。