第5章 守りたいもの 錆兎
「俺ここ少し手伝ってから行くな」
「うん、分かった」
錆兎と離れるのは少し寂しい
名残惜し気に錆兎を見つめると、何となく伝わったのか錆兎はよしよしと私の頭を撫でてくれた。
それだけで、嬉しくなった。
「では、出発しますね」
「あ、すいません。あと一つ…」
あと一つ?
何だろうと私がキョトンとしていると、錆兎の顔がゆっくりと近づいてきて…
唇に、触れるだけの優しい口付けを一つ、落とされた
「俺も後で行くから」
「…うん…」
こ、こんな人前で…
恥ずかしくて顔から火が出そうなほど熱る私とは裏腹に、錆兎はなんとも清々しいほどに爽やかな笑顔だった。
その笑顔は、かっこ良過ぎだってば……
「ありがとうございました。行ってください」
「え⁈あっ、はいぃ‼︎」
隠の二人の顔が私に負けないくらい真っ赤になっていて、もうそれは黒い布で顔を覆われていても良くわかった。
動揺した二人に一瞬担架ごと落とされそうになってドキドキしたけど、無事に担架が動き出す。
錆兎は私に手を振って、そのまま手伝いに行ってしまった。
「愛されてますね!」
「……へ⁈」
私を運ぶ頭側の隠の人にニコニコで顔を覗き込まれる。
何と言えばいいのか分からず暫し固まると、
「戦場で愛の告白とか素敵じゃない⁈萌えるわ!ねぇ、どうやって知り合ったの⁈聞かせて聞かせて!」
やっぱりさっきの聞かれてたんだ…この上なく恥ずかしい…
けれど、足側の隠の人にやや興奮気味で聞かれ、断る術もなく出会いからざっと説明する羽目に。
こんな仕事をしているけれど、中身は皆やっぱり女の子。
終始恋の話で盛り上がりながら、私は無事に蝶屋敷へと運ばれた。
さっきの錆兎と紗夜を、少し離れた所でぼーっと見ていた男二人。
「ああいうのが、さらっと出来る男になりたい」
「あー、奇遇ですね。俺もです」
「本当?君名前なんて言うの?」
「後藤っス」
「俺、村田。よろしく。なんかスゲー気が合いそうなんだけど」
「よろしくっス。じゃ、今度飯でも行きます?」
後日、村田と後藤で二人仲良く定食屋に行ったとか、行かないとか……